「赤司君、京都の洛山高校に決まったんだって?すごいねバスケ強いとこなんでしょ?」

「うん、昨日、通知が来たみたい。強豪校みたいだよ」

「名前はどうするの?高校」


少しだけ早い時期に行われる推薦入試で赤司の高校進学が決まり、赤司と離れ離れになるという現実を突きつけられた。寂しくないと言ったら嘘になる。大嘘だ。めちゃくちゃ寂しい。だってせっかく赤司と仲直りできたのに、離れ離れなんて酷すぎる。あー、私がもう少し頭がよかったらなぁー、なんて非現実的なことを考えながら帰りの支度を始めたとある日の放課後のこと。


「苗字さん、呼ばれてるよ」


委員長が教室の入り口付近で私に声をかけてきた。帰ろうと机の中の荷物をぐちゃぐちゃに鞄の中に詰め込んでいる私はそちらに目を向ける。そこには委員長と、もう一人。私を呼んだであろう女子生徒。「ちょっといいかな、」なんて控えめに私に笑いかける。どこかで見たことある顔だなあ、と考えながらそちらに足を進めて気づく。あ、この子…。


「おはよう、赤司君」


そう、あの子だ。赤司の教室を覗き見たときに赤司の隣にいたあの子。仲良さげに赤司と笑っていたあの子。彼女を目の前にして、遠くなる赤司の背中を思い出した。どうしよう、この子に赤司とられちゃったら…。


「えっと…何か用、かな?」

「あ、ごめんね、いきなり!私、紺野芽衣っていうの。赤司君と同じクラスなんだけど…わかるかな?」


紺野さんって言うんだ。可愛いし、仕草とか女の子らしくてガサツな私とは全然違う。女子力のレベルがちげぇ…。


「うん、」

「苗字さんは、赤司君の幼馴染なんだよね?よく赤司君から話きいてるよ」


なに話してんだ赤司。どうせ鈍臭いとかすぐ泣くとか、頭悪いとか言ってんだろアイツ…。そして紺野さんは「それでね、」と話を進めようとして、周りをキョロキョロ見渡した。


「…ここだと人多いし、ちょっと場所変えない?」

「あ、うん…」


なんだか嫌な予感しかしない。




「あー、その話ってのがね、」


連れて来られたのはどっかの空き教室。まあ座ってよ、なんて軽く言われて腰を下ろすと早速話を振られた。


「赤司君のことで、苗字さんに協力してほしいんだけど、」

「えっ…」


それって、どういうこと?なんて言えなかった。気づいたからだ。あぁ、紺野さんも赤司が好きなのか、って。どうしたらいいかわからなくて、私は隠れて制服のスカートの裾をぎゅっと握った。赤司の幼馴染である私が邪魔だからこうして私に協力を頼んだのか、ただ単純に赤司の幼馴染である私を利用しようとしたのかはわからないけど、今の紺野さんの印象は最悪だった。


「それで、赤司君の…」

「ご、ごめん…!」

「ん?」

「あの、協力は…できない、」

「えっ、あ、苗字さんっ!」


震えた声でそう言って私はその場から走り去った。紺野さんが赤司に告白したら赤司はどうするんだろう。私のことなんてほったらかしにしちゃうかな?可愛くて女の子らしい紺野さんのことが好きになっちゃうかな?なんて赤司を信用してないわけじゃないけど、不安になるものはなる。泣きそうになるのを堪えて私は家まで全力疾走した。






「なぜ、ここにいる貴様」

「名前のお母さんとそこで会ったんだ。夕食一緒にどうだって誘われたからお言葉に甘えることにしたよ」


帰って部屋に向かうと今は見たくなかった顔が「おかえり」なんて言って私を見る。女の子の部屋に勝手に入るな。しかも隠してた18点のテストがなぜか机の上にある。貴様、私の部屋を物色したな。ふざけるな、このタイミングで一緒に夕食だと?私は今全然そんな気分じゃない。お母さん空気読めよ。


「…………」

「名前?」

「なに?」

「どうかしたか?」

「何で?何もないよ」

「顔がいつにも増してブサイクだった」

「黙れ」


赤司は鋭い。極力怪しまれないようにいつものトーンで返す。赤司はそれっきり何も言わなかった。それから赤司は私の部屋の物をいろいろ見たりしてるから、こっちを見てないうちに着替えてしまおうと、制服を脱いだ。


「久々に名前の部屋に来たけど、あまり変わってないな」

「そんな変わらないよ」

「あ、これ僕が小学校のときにあげたぬいぐるみだ。まだ持ってたのか」

「それないと寝れないの」

「まるで子どもだな…って、おい」

「ん…?」


赤司の言葉に振り向くとバチリ、と赤司と目が合う。あ、という間抜けな声を発したのは私で、赤司は呆れたようにため息をついた。


「なんて格好してるんだ、お前は…」

「な、何でこっち見たの!?」


下はかろうじてまだスカートを履いていたからいいものの、上はブラ一枚。何やってんだ私の馬鹿野郎。慌てて床に脱ぎ捨てたブラウスを拾って前を隠す。今更な気もするけど。部屋の物に夢中だったし、まさか赤司がこっち振り向くなんて思わなかった。


「なんでって。それはこっちのセリフだ。なんで振り向いたらブラ一枚なんだ。痴女か」

「違うわ!!!!」

「着替えてるなら言え。お前はそういうところで危機感が無さ過ぎる」

「危機感?」

「僕だって男なんだよ」

「どういう意味?」

「この鈍感女」

「えっ、うわっ!?」


気づいたら私の目の前にいた赤司がいきなり私の腕を引いてベッドに押し倒した。ギシリ、とベッドが軋んで赤司が私を見下ろしてる。その間に私の心臓はバクバクとすごい鼓動が鳴り始めた。


「好きな女の子のこんな姿見て僕が欲情しないとでも思ってる?」


好きな女の子…、そう言った赤司の瞳に私が映っていて、それがどうしようもなく嬉しくなった。さっきまで悩んでいたことがバカらしく思えた。紺野さんに負けないくらい私だって赤司が好きなんだ。

でもさすがにこの状況は恥ずかしすぎる…。まっすぐ見つめられたオッドアイに私は耐え切れず視線を逸らす。すると赤司は本日二度目のため息をついて「自業自得だ」と呟いて私の上から退けた。


「先に下に行ってる。はやく着替えておいで」

「う、うん…」


部屋を出て行こうとする赤司は「あ、それと」と何かを思い出したように振り向く。


「誰に何を言われたのかは知らないけど、名前は安心して僕の隣に居ればいい」


赤司はなんでもお見通しってわけですね。ねえ、赤司。そんなさりげない優しさに私はいつも助けられてるんだよ。
だけどね、私は赤司のものだっていう絶対的な証拠がほしいよ。
「赤司の好きな女の子」
嬉しいはずなのに、やっぱり不安だよ。
欲深い私はあなたの「彼女」になりたいの。

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