「だから!おーまーつーり!」
「行かないって言ってんじゃん」
「頼むよドラえも〜ん」
「誰がドラえもんだ」
中島がウザい。とにかくウザい。それは今週末にある毎年たくさんの人が集まる一番大きなお祭りに一緒に行ってくれとのことだった。最後に上がるハートの花火があって、それを好きな人と一緒に見たらそのふたりは結ばれるっていう嘘か本当かよくわからないけどそんなジンクスがあったり。そんなわけで、中島はうちのクラスの爽やかイケメン和田くんと一緒に行きたいらしいが、なんと和田くんはクラスの仲良し男子グループと一緒に行くという。
中島の作戦はこうだ。
祭り会場で「あれ?和田くんたちも来てたんだ!偶然だね。よかったらみんなで一緒に回らない?」とあくまでも偶然を装い、あくまでも偶然を装い(大事なことだから2回言う)そこで和田くんといい感じになって最後はふたりで抜け出してハートの花火を見ちゃおう!みたいな。その間、私はどうなるんだよ。
「中島、恋してんのな…」
「アンタだってしてんじゃん」
「…私のは、もう恋じゃない」
もう恋なんかじゃない。そう自分に言い聞かせる。そうでもしないとやっていけないでしょ。私も中島みたいなピュアな恋がしたいわ。
「ねー!とにかくさ、行こうよ!行こうよー!」
「やだって。中島が和田くんと抜けたら私どうなるの?ぼっち?」
「赤司くんでも呼べば?」
「なにその拷問。そもそも和田くんと合流できるとは限らないじゃん。拒否られたらどうすんの」
「私と名前を目の前にして拒否する男はいないでしょ」
お前自分を過大評価しすぎだ。確かに中島は美人だ。クラス内ではクールビューティーで通っているけど、ただの頭おかしい変人女だって私は知ってるんだからな。
「とにかく私行かないから」
「えー。わたあめでもかき氷でも何でも奢ってあげるからお願い」
「行く!」
「…現金なやつ」
中島の奢りなら話は別だ。行くに決まってる。中島の財布を空にするつもりで行ってやる。
「そうと決まれば、浴衣ね!」
「え?めんど」
「なに言ってんの!一夏に一度の浴衣よ!!形から入るのよ!!着てこなかったら奢らないから」
そりゃないぜ中島〜〜。
(って、よく考えたら私浴衣なんて持ってなかった)
お祭りなんてしばらく行ってなかったし、小学生のころ赤司と行ったのが最後だ。昔着てた浴衣は近所の女の子にあげたんだっけ。しまった。このままだと中島の財布を空にできない…。と焦りにも似た感情のまま帰り道を行く。そこでふと通りかかった店のショーウィンドウに浴衣を着たマネキンが数台立っていて自然にぼーっと眺めてしまう。可愛い浴衣だな。ピンクや青や緑や黒。どれも可愛い。その中でも私の目を離さなかったのは赤い浴衣だった。真っ赤な生地にたくさん華が咲いていて綺麗。けど赤を見るとどうも目つきの悪いズガタカ男を思い出してしまう。私はそんな雑念を消すように頭を振った。すると、耳にはめていたイヤホンがいきなり引っ張られてスポーン!と抜ける。聞いていた音楽も聞こえなくなって、一気に街の雑音が聞こえてきた。
「寸胴のほうが浴衣がよく似合うらしい」
「……」
「名前ならすごく似合うだろうね」
振り返ると、さっきまで私の頭の中にいた雑念が相変わらず何を考えてるかわからない表情で私のイヤホンをくるくる振り回していた。やつは遠回しに私を寸胴と言いたいらしい。
「残念だが私はスリムボデーだ」
「何がボデーだ。自分がスリムボディーと勘違いしてるようなら鏡見直して来い」
「黙れ小僧」
ホントいちいちムカつくやつ。てか何でいるんだよ。私の帰り道を邪魔するな。ムッとしたら赤司は私が見ていた浴衣を横目で見てから鼻で笑う。
「一緒に行く男もいないくせに浴衣なんか見てどうする」
「日頃からボッチのアンタに言われたくないね」
「………」
「……なにじっと見て」
突然黙り込んだ赤司に首を傾げる。何か言いたげにじっと私を見ている。なに見とんじゃコラァ。
「お前がどうしてもというなら一緒に行ってやってもいい(ていうか一緒に行ってくださいお願いします)」
「はぁ?何それ私と行きたいわけ?(えっどーしよ誘われちゃった嬉しいんだけどおおお中島のドタキャンしちゃおうかなあああ)」
「まさか。あまりにもブスで寸胴な女がひとりで可哀想な思いをしないようという僕の優しさだ。決してお前と行きたいわけじゃない(いやいやいや違うから本当に一緒に行きたんだって僕の気持ち察しろよバカ)」
「あっそう。別に優しさとかいらないから!私、中島と行くし赤司となんて願い下げだから(えええ何だよ同情で言ってきただけかよすごい舞い上がっちゃったじゃんショック)」
「そうか。僕も仕方なく誘っただけだ。お前と隣を歩くなんて絶対に嫌だ(嘘だからそれ嘘だからああああもう何やってるんだ僕は)」
は?もう知らね。赤司をおいて帰ろうと歩き出したらなぜか腕を掴まれて半歩後ろに戻ってしまった。
「………」
「なによ」
「本当に中島とか?」
「そうだけど」
「男じゃないのか?」
「何で赤司がそんなこと聞くの?」
「いいから質問に答えろ」
「だから中島と行くの」
「ならいい」
そう言う赤司の手が離れる。そのまま何も言わずに今度こそ帰ろうとしたら後ろで赤司が私の背中に向かってポツリと言った。
「最後の花火が上がる前に帰って来い」
それってどういう意味?