「俺のドリンクがないのだよ」
「さつき〜お仕事お疲れ様。はい、ドリンク」
「名前、私はマネージャーだからいらないってば。てか、それみどりんの!」
「なぜお前は桃井のマネージメントをしているのだよ!!」
「私はマネージャーのマネージャーだ!」
「マネージャーのマネージャーってなんだよ」
「つーか、あの二人あんなに仲良かったっけ〜?」
「友達になったんだとよ」
「は〜?」
今日も平和である。
「マネージャーの仲もどうやら改善されたみたいだね」
「赤司様には何でもお見通しですか」
「お前が桃井を庇って上級生に殴られたこともちゃんと耳に入っているよ?」
「ヤダ怖いわ」
練習が終わり、片付けを済ませて部室に向かうと赤司が私の横に並んで歩く。赤司の言う通り、ギクシャクしたマネージャー同士の仲もすっかり良くなった。まずは私とさつきがお友達になったこと。それがきっかけでさつきを通して浅井サンと棗サンとの仲も少しずつだけど良くなっていった。ということもあり最近私の周りは驚くほど平和だった。
「苗字のことだからやり返すと思ったが」
「私こう見えて喧嘩弱いんだよ。それにバスケ部っていうものに所属してしまったからには下手に問題起こせないでしょ。まあ私のへなちょこパンチで問題にはならないと思うけど」
「驚いたな。苗字も一応部のことを考えていたのか」
「赤司、私のこと何だと思ってんの」
じーっと赤司を見ればクスッて小さく笑われて誤魔化される。どうせ害児とか思ってんだろ!名前ちゃんだってしっかり考えて行動してるんだぞぉ!とわざとらしく怒ったらまあ華麗にスルーされた。想定内だ。
「まあ、いい心がけだよ。それより急いだ方がいいんじゃないのか?あまりお腹を空かせると機嫌が悪くなるぞ」
「え?」
そう言って赤司は笑うと私を通り越して奥を指差す。釣られて見てみると部室の前にしゃがみ込んだ大男を見つけた。目が合うとそいつがムッとして私を睨む。
「…遅えし」
お菓子なくなりそ〜、という紫原に私は暫しポカンとしていた。今の言葉は私に向けられたもので間違いないよな?遅いって、待っててくれたの?
「え、なんで…?」
「帰ろうって言ったのはアンタじゃん」
「まさかホントに一緒に帰ってくれるとは思ってませんでした」
「帰る」
「待って待って置いてかないで」
立ち上がり長い足でスタスタ行ってしまう紫原の制服を引っ張って引き止めると振り返って「お腹すいてんだから早くして〜」と間延びした声で答えた。。つまり!つまりこれは一緒に帰ってくれるということだろうか?まさかあの日言ったことを紫原が覚えててくれていたとは思ってなかったので苗字名前、とっても嬉しいです。はい。
「よかったじゃないか、一緒に帰る友達が出来て」
「友達じゃねーし、赤ちん変なこと言わないでよ〜」
「え、友達じゃないの!?」
「家近いから一緒に帰るだけだかんね〜」
「そ、そうですか」
「とにかく気をつけて帰るんだよ二人とも」
「赤司は?一緒に帰る?」
「いや、俺は虹村さんと監督のところに用があるから先に帰ってくれて構わないよ」
「そう、じゃあ今度赤司も一緒に帰ろ」
「そうだね」
そう言って赤司を見届けて隣にいた紫原を見上げると早く着替えてこいと目で訴えてきたので急いで更衣室に向かった。
「コンビニ寄ってこ〜お菓子〜」
「家帰ったらご飯あるじゃないの」
「帰るまでのお菓子ねぇじゃん」
「私アンタが怖い」
どうやら胃袋の限界がないと思われる紫原に連れられ学校の近くのコンビニに入ると真っ先にお菓子コーナーへ向かう紫原についていく。
「あ、これ知ってる。CMでやってた」
「それおいしいよ〜」
「へー、買って」
「ヤダし」
「ケチ」
まったく奢る気のない紫原を見捨てて私はアイスコーナーへ向かった。アメリカの体に悪そうなアイスより私は日本のアイスが好きだ。とくにこの100円以内で買えてしまうゴリゴリ君。うまいっす。私はそれをひとつ手に取りレジで会計を済ませる。同じ頃に紫原も会計を済ませて一緒にまた帰り道を歩いた。
「やっぱアイスも買えばよかった〜」
「そんなにお菓子買っといてよく言うね」
じーっと私の手にあるアイスをガン見している紫原はさながら獲物を狙うライオンのようだ。「い〜な〜」と羨ましそうに見るものだから仕方なく私は紫原にアイスを持ってく。私って紫原に甘くないか?
「一口だけね」
「やった〜」
嬉しそうに笑ってアイスに噛り付く。さっきのライオンは訂正しよう。身長差から紫原が屈む体制になってしまうのだけどまさにキリンみたいだ。
「ちょっと一口って言ったじゃん!」
「だから一口だったじゃん」
「もうちょっとしか残ってないじゃん!お前の基準で言うな!」
「いちいちうるさいなー」
「お前それが貰った人の言うことか」
「はいはい、これあげるから黙って〜」
「んぐっ!?」
無理やり口に押し込まれたまいう棒。美味しかったから許す!!!!
「やっぱり私アンタに甘くないか?」
「ん〜?オレ甘いのは好きだよ〜」
「ああ、うん、そういうことじゃないけどいいや」
「甘やかされるのも好き〜」
「あざといヤツだな!!!!」
この日以降、紫原と帰るのが日課になったのだった。