「名前ー、タオルー!」

「んー」

「サンキュ。ドリンク」

「はい」

「マッサージ」

「この辺?」

「あー、そこそこ。あと背中かいて」

「私はお前の介護士じゃない」


青峰と仲直り?してからというもの少しだけ部活の雰囲気が良くなった気がする。つい昨日までは口を開けば喧嘩が始まって虹村サンに怒られるという事態だったのに今日の部活はとても落ち着いていた。


「もー!大ちゃ…、青峰くん!あんまり苗字サン困らせないでよ!」

「なんだよ、さつき。だったらお前がやれよ」

「知らないよ!苗字さん、こんなのほっといていいからね!」

「お、おお…」


青峰を「こんなの」呼ばわりする彼女は同じマネージャーの桃井サン。数える程度しか話したことがないのでよく青峰と一緒にいる可愛い子という認識しかないが、それにしても良い乳してやがる。くれ。その乳くれ。


「苗字さん?どーしたの?」

「え?あ、いや、立派なものをお持ちで…」

「え?」


同じ中1でここまで差が生まれるものなのか、と内心落ち込んでいるといきなり後ろから盛大に笑い声が聞こえてきた。


「あははははっ!!!名前、お前サツキが羨ましいんだろォ!だってお前まだスポブ」

「黙れショーゴ殺すぞ!!!!」

「へーい」


勝手にわたしのスポブラ事情を暴露しようとしたショーゴを睨む。なんだその空返事。殺すぞ。なんで真面目に部活来てんだよ。殺すぞ。


「確かにお前ないもんな」

「え」

「ちょっと!青峰くん!」


思わず固まる。だって、私の胸にはなぜだか青峰の手があるんだもん。


「ぎゃああああ!?!?」


あまりに自然な流れだったせいで反応が遅れた。そして急に恥ずかしくなって顔に熱が篭る。ボフッて私の何かが爆発した。お、お嫁に行けない…。


「うるせーよ、大声出すなよ」

「は!?アンタのせいでしょ!バカ峰!エロ峰!」

「お前たち練習中に何を騒いでいるんだ」

「うわあああん、赤司ィ!あのガングロがセクハラしてくるよ処してよ〜〜」


丁度いいタイミングでやってきた赤司の後ろに隠れると赤司は小さく笑う。


「昨日まで喧嘩が絶えなかったのに随分仲が良くなったみたいじゃないか」

「これが仲良く見えんの!?私セクハラされてたんだけど。眼科行って来なよ赤司」

「目は良いはずだが」

「マジレスすんな」

「つーか、お前のおっぱいより赤司の胸筋のほうがあるんじゃねーの?」

「は!?そんなことないし!」


そう言って赤司の脇の下から腕を突き出して後ろから赤司の胸筋を触って自分のと比べてみる。さながら変態の様に赤司の胸を揉んだみた。


「!?」

「おお〜、意外に胸筋あるんですね赤司お坊っちゃま。でもまぁ私のおっぱいのほうが断然やわらかいわ。安心、安心」

「……コラ、苗字」


赤司の胸を触っていると急に腕を掴まれて赤司が振り返る。すると少し顔を赤らめた困ったような表情で「やめろ」と言われた。


「女の子なんだから、そういう言動はあまりするものじゃないよ」

「…へーい」

「青峰も。あまり苗字をからかうな。それに個人差があるんだから今は絶壁でもこれから…」

「いや、赤司お前。何気に一番ひどくね?」

「赤司サイテー」

「あ。いや…すまない…」

「やめろ謝るな可哀想だろ私が!見てろ、そのうち大きくなるから!ボインなお姉さんになって見返してやる!」

「手伝ってやろうかァ?」

「ショーゴは黙ってろ!」


そんな私たちの様子を見ていた緑間が一言、「大きな声で破廉恥なことを言うな!」と怒っていた。





「あ!苗字さん、お疲れ〜」

「お疲れさまー」


今日の練習も無事に終わってため息をつきながら部室に戻れば桃井サンが苦笑いで私を出迎えた。練習が終わってさっさと帰ろうとしたら自主練をするというクソ真面目組の一人であった青峰にお前も残れ、と無理矢理参加させられて青峰の「どうだ俺すごいだろー!」みたいな技をひたすら自慢げに見せられた。赤司曰く「青峰はお前と仲良くしたいんだよ」ということだったが、どうなんだか。そうだったら嬉しいっちゃ嬉しいけど、今とても眠たいし早く帰りたかったので「ワー!スゴイスゴーイ!」とテキトーに流していた。


「ごめんね、大ちゃ…青峰くんの自主練に付き合ってもらって…」

「私なにもしてないけどね。実に面倒だったよ君の彼氏」

「え!?青峰くんは私の彼氏じゃないよ!?」

「えええ」


てっきり青峰の彼女かと思ってた。よく一緒にいるところ見るし、たまに呼び方「青峰くん」って訂正するけどほんとは「大ちゃん」って言いかけてるの薄々気づいてたし。


「青峰くんはただの幼馴染だよ!」

「こんな可愛い幼馴染がいるのに青峰なにしてんの?バカなの?あー、でも青峰にはもったいないわ」

「えぇ!なに言ってんの苗字さん!?」


桃井サンほどの顔と体型なら男が放っておくわけないのに、なんて思っていたら他のマネージャーが部室に入ってくる。


「あっちゃん、なっちゃんもお疲れ!」

「お疲れ〜」


うちの部の1年マネージャーは私と桃井サンの他に浅井サンと棗サンという子がいる。彼女たちとは担当が違うからあまり話したことがない。マネージャー用の部室に全員が揃ったのはたぶんこれが初めてだ。散々クラスで嫌がらせをされているせいで女の世界の面倒臭さを知っているからか、女しかいないこの空間が少しだけ嫌だと思った。というか、直接何か言われたわけではないけど恐らく彼女たちに良く思われてないってのが雰囲気で伝わってくるからあまり一緒に居たくないのだ。


「じゃあ、お先に失礼するね」


急いで帰る準備を済ませて部室を出る。玄関まで来て靴を履き替えようとしたところで、携帯を部室に置いてきてしまったことに気づいた。何となく戻りづらいなと思ったけど、携帯がないと困るわけで重い足を引きづりながら部室へと思った。


「てか、さつきちゃん大丈夫なのー?」

「え?なにが?」

「苗字さんだよ!苗字さん!担当一緒でしょー?」


部室の前まで来てドアに手をかけたところで止まる。自分の名前が出たことで思わずドアノブを捻るのをやめてしまった。


「苗字さん、あんまりいい噂聞かないじゃん。クラスでハブられてるっぽいし、なんかいつも感じ悪いっていうか、私ちょっと雰囲気が苦手なんだよねー」

「わかる、私もー」


声的にきっと浅井サンと棗サンだろう。ほらね、やっぱり私嫌われてた。まあ、こういうのもう慣れたけど、それでも今ドアを開けるのは違う気がしてなんだが盗み聞きしてる気分になった。というか盗み聞きしてるんだけど。


「私もまだあんまり話してないから苗字サンのことよく知らないけど、みんなが思うほど悪い人じゃないと思うけど…部員とだって少しずつ打ち解けてるし」


予想外だった桃井サンの言葉に少し驚く。てっきり一緒になって何か言われるかと思った。すると後ろから自分より大きな影が出来ていることに気づく。


「なにしてんの〜?」

「ぎょわっ!?ちょっと驚かさないでよ、紫原」

「ぎょわって…。そんなとこで突っ立って盗み聞きでもしてんの〜?変態?」

「ちょっとは空気読んでよ。あと変態じゃないから」

「はあ〜〜?」


明らかに部室の中にまで聞こえたであろう私と紫原の声は案の定彼女たちの耳に届いていた。空気読めない紫原を睨んでみたけど訳がわからないというような表情で首を傾げられた。もう諦めて普通にドアを開ければ、割と気まずい空気が完成していて私もびっくり。


「…苗字さん、もしかして今の聞こえてた…?」

「あ、はい。でも大丈夫だから。薄々気づいてたし、こういうの慣れてるから」

「ごめん、私たちそんなつもりじゃ…」

「あー、大丈夫大丈夫。人なんだから好き嫌いくらいあるしね。私もあるある。てか忘れた携帯取りにきただけだから」


じゃあお疲れ様また明日、と早口で伝え何事もなかったかのように部室を出たらまだそこに居た紫原が黙って私の隣を歩く。


「なに修羅場?」

「んー、そうかも」

「大変だねアンタも」

「他人事だね」

「他人事だしね〜」

「………」


アンタが来なければうまくやり過ごせたんだよ、という意味を込めてサクサクとまいう棒を食べる紫原をじっと見上げたら「あげないよ」と言われた。別に欲しくて見たわけじゃねーよ。


「苗字さん、ちょっと待って!」

「………?」

「あれ〜、さっちんだ〜」


玄関で上靴からローファーに履き替えたところで桃井サンが走ってやってきた。そんな慌ててどうしたんだ。


「あ!むっくんもいたんだね…!あのね、苗字サン…っ!さっきの…ね!」


息を切らす桃井サンに「とりあえず落ち着きなよ」と背中を摩る。まあ何を言いたいのかは大体予想はつくけど。


「あっちゃんもなっちゃんも悪気があったわけじゃないと思うんだ…!だからその…」

「だからみんなで仲良くマネージャー頑張りましょう!って?」

「う、ん…仲良くできないかな…?」

「いや〜無理でしょ。悪気がなくても結局は私のこと良く思ってないってことでしょ?だったら上辺だけニコニコされても私だって嫌だし」

「そうかもしれないけど…、話せばきっとわかってくれるよ苗字さんのこと!」

「そういうのいいよ。面倒なの嫌だし。ていうか、桃井サンも私に気使わなくていいからね。嫌われるのなんて慣れてるから」

「慣れてるって…そんなことに慣れちゃダメだよ!そんな…悲しいこと言わないでよ…」


どうして目の前の桃井サンが泣きそうになるのかわからなかった。悲しいのはアンタじゃないでしょ。悲しいのは他人に嫌われて、嫌がらせさせてきた私でしょ。今まで傷つかなかったわけじゃない。何とも思ってないような顔してたけど、平気だったわけじゃない。嫌だったしムカついたし、だから自分なりに小さな抵抗してきて、でも結局何も変わらないから慣れるしかないんだよ。だから何も知らない桃井サンにそんな同情紛いなことされたくない。


「こんなこと、慣れたくないけど…、でも慣れるしかないじゃん」

「え…?」

「同情のつもりだか知らないけど、平和でのほほんと生きてた桃井サンに私の何がわかんの?何も知らないくせに」

「……っ!」


しまった、と思った。目の前で目に涙を浮かべる桃井サンに思わずため息をついてしまう。こんなこと言うはずじゃなかった。八つ当たりだ。言ってしまった手前今更どうしていいかわからなくて、私はそのままその場から去った。







「……で、何でついてくんの?」

「俺ん家もこっちだし〜」


あんなことがあったんだからひとりになりたいのに帰り道が同じだというとことん空気の読めない紫原と一緒に帰る羽目になった。私の一歩後ろを歩きながら両手に抱えたお菓子を頬張っている。


「桃井サンさぁ、私のこと嫌いになったかな」

「さぁ〜?まあ普通はなるんじゃないの?俺ならあんなムカつく言い方されたら捻り潰しちゃうねー」

「そうだよね〜…ん?捻り潰す?」


嫌われることなんて慣れてる。傷つけられるのも、失うのも、慣れてる。また一人、数が増えるだけだ。

「慣れてるって…そんなことに慣れちゃダメだよ!そんな…悲しいこと言わないでよ…」


「でも同情されるのって何か嫌じゃん。こいつは可哀想な女だって思われるんだよ?なんか悲劇のヒロインみたいでヤダ」

「アンタにはヒロインとか向いてなさそー」

「言ってくれるねー、紫原クン」

「でも、さっちんはアンタに同情したんじゃなくて、ただ純粋に心配したんじゃねぇのー?」

「心配…?なんで?」

「俺に聞くなしー」


他人のことなんてどうでもいいから知らな〜い、と間延びした声で紫原は私を追い越してしまう。だけどその数歩先で振り返って「はやく」と私を待ってくれていた。ツンデレなのかな。


「あ、私ん家あそこ」

「えー、わりと俺ん家と近いじゃん」

「何で嫌そうな顔すんだよ。もっと喜べ!私と帰り道一緒なんだゾ!私、友達と一緒に帰るの憧れてたんだ〜」

「友達いねえの?可哀想…」

「真顔やめろ。てか私たちもう友達じゃーん!」

「え、ちげーし」

「違うの!?」


まじか。私の勘違いだったんだ。練習で飴もらって以来すっかり仲良しだと思ったんだけど。どうやら気のせいだったみたいだ。オーマイガー。


「で、でもこれからなれるよ!ゆっくり時間をかけて友情を育み合っていこうゼ!とりあえずたまには一緒に帰ろうね!?」

「言い方がキモい」

「ね!?」

「しつこ…気が向いたらねー」

「やっほーい!」

「アンタ単純だよね〜」

「ありがとう!」

「褒めてないけど」

「照れるな、照れるな」

「ウザ」

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