「まさかさつきがねー、」
さつきが結婚する。中学の頃からか思いを寄せていたあの人と。まあそこは察してほしい。あの料理のできないさつきがお嫁に行く日が来るなんて、私は嬉しいよ。そんなことを隣を歩く青峰に言ったら「テツが死なねえことを祈るだけだな」なんて返ってきた。ほんとだね、なんて笑うと背の高い青峰も私を見下ろして笑う。きっと青峰も嬉しいのだと思う。ずっと一緒にいた幼馴染が想い人と結ばれて結婚するのだから。
「ねぇ、どれがいいと思う?」
「お前、胸ないんだからあんま露出したのはやめろよ」
「え?なに?なにも聞こえない」
そんなわけで、私は青峰と一緒にさつきの結婚式へ着て行くドレスを選びに来た。お連れのガングロくんは大して興味もなさそうに私が手にとった服をじっと見ている。
「私って結構赤とかピンクとか似合うってよくさつきに言われるんだよね」
「………」
「これとかどうかな?」
「…論外」
私が赤いタイトなシルエットのドレスを自分に合わせて青峰を見ると仏頂面でそれを奪われた。代わりに押し付けるように渡されたのが青いミニ丈ワンピのドレスだった。
「こっちのほうがいい」
「え?」
「だから、お前は青のほうが似合うから…とりあえず!試着してこいよバカ!」
バカは余計だ。そう思いながらも無理やり試着室に押し込まれ着替えて出ると青峰は上から下までじっと私を見てから「まあ、いいんじゃねーの」と言って視線を逸らした。こういうとき青峰はいつも照れ隠しで視線を逸らすことを知ってる。もう何年こいつの彼女をやってると思ってるんだ。昔から素直じゃないのは知ってる。「じゃあ青峰が選んでくれたこれにするね」そう言ったら彼はどこか満足げに頷いた。それから着替えるとすでに青峰によって会計が済まされていた。ぎょっとしたがお礼を言うと「いいから行くぞ」と言ってしっかり握られた手を引いて一緒に歩き出す。ぶっきら棒で不器用だけどこういう優しいところ好きだな、なんてよく思う。
「さつきはウェディングドレス着るのか〜。きっとさつきのことだからすっごい綺麗だろうね」
「知らねーよ」
「早くさつきのドレス姿みたいな」
あのナイスバディなさつきのことだからドレス姿も相当綺麗なのだろう。頭の中で想像していると急に頭の上にズシリと重みが増した。青峰の手だ。その手が乱暴に私の頭を撫でる。まるで現実に帰ってこいというように。
「人のウェディングドレスなんか見て何が楽しいんだよ」
「そりゃあ友達の晴れ姿なんだから楽しみでしょ」
「…お前は?」
「ん?」
「お前は着たいとか思わないのかよ」
「まあ女の子の夢だよね」
「じゃあ今度はこういうドレスじゃなくて、ウェディングドレス選びに行くか」
「え?」
青峰の言葉に思わず立ち止まる。手を繋いでいたから必然的に青峰の足も止まってしまって「なんだよ」と私を振り返った。
「え?待って今のどういう意味?」
「はァ?だからそのままの意味だろ」
オレとお前の結婚式のドレス選びに行くぞって言ってんだよ。
そう言った青峰はまっすぐ私の目を見て言った。これってプロポーズだよね?そういうことでいいんだよね?緩みきった口でいざ返事をしようと口を開けば青峰はそのまま私の手を引いてまた歩き出してしまった。
「ちょっと、青峰っ、」
「なんだよ」
「私まだ返事…っ」
「返事?んなもん、聞かなくても決まってんだろ」
そう言う青峰に思わず笑ってしまう。確かに答えなんて最初から「はい」か「もちろんです」しかないのだ。「笑ってんじゃねぇよ、置いてくぞ」というわりにはちゃんと私の歩幅に合わせて歩いてくれている。青峰はちょっと強引だけど、そんな中に見える優しさがいつも伝わってくるから私はこれからもこの人の隣に居たいと思うのだ。
「青峰……、じゃないか」
「……」
「大輝」
「…っ、なんだよ!」
「幸せにしてね」
「当たり前だろ」