SHE IS MINE番外編
赤司とヒロインちゃんが付き合ってる設定です。ヒロインちゃんは黒子と同じ高校に通っています。







『誕生日?あぁ。悪いが、その日は練習のあと部活のメンバーがオレの誕生日を祝ってくれるらしいから名前には会えない』

「ちょっとちょっと。可愛い彼女が一緒にお祝いしようって言ってるでしょーが」

『そんなこと言ったってしょうがないじゃないか』

「お前はえなりか」


ようやく赤司と幼馴染から恋人という関係になって、初めて迎える赤司の誕生日だっていうのに電話越しの男は至って冷静に「その次の日なら空いてる」と答える。


「次の日じゃ意味ないの!赤司の誕生日は1日だけなんだから!!」

『第一オレのためにわざわざ東京から京都まで来る気か?』

「あたりまえじゃん!バイトまでして交通費貯めたんだよ!?」

『あぁ、時給1200円に釣られてメイド喫茶でバイトしてたみたいだね。オレの居ないところで知らない男に媚び売るなんて名前も隅に置けないな』

「えっ、何で知ってんの!?」

『黒子からお前の写メが送られてきたよ』

「あいつ…っ!!」


テツヤくんにメイド喫茶の制服を着て見せたのが間違いだった。でも案外私に似合ってたんだもん。ほら私って顔面偏差値は高いし(真顔


『とにかく、名前の気持ちはありがたく受け取っておくよ』

「やーだー!京都まで行く!部活休んでよ!」

『名前、あんまり我儘言わないでくれ。WCで誠凛に負けたし今までより一層練習に力を入れていかなきゃいけない。オレひとりの都合で休めないだろう』

「う〜〜〜!!!」


そりゃあバスケが大事なのはわかってる。赤司がバスケ好きなのも知ってる。私が面倒な我儘言ってるのもわかってるけど…!


「赤司っていっつも部活ばっか!バスケバスケって!」


私が連絡してもいつもバスケがなんちゃら〜ってさぁ。「今なにしてる?」「部活」「明日はなにしてんの?」「部活」「じゃあ…」「部活」「部活」「部活」「部活」ぶーーーかーーーつーーー!!!!!あいつ部活しかしてねぇじゃん!!!結局、会えたのなんてWCのときくらいだし、連絡だって赤司は忙しいからあんまりしないようにしてる。でも誕生日はやっぱり特別だから会いたいって思ったのに!


「赤司は私に会いたいとか思ってくれないの?私は赤司に会いたいし、一緒に誕生日だってお祝いしたいよ!」

『名前…、オレは』

「もういい!赤司なんて知らないから!どうせ私はバスケ以下ですよ!!」

「あ。おい…っ!」


ブチッ。乱暴に電源ボタンを押してiPhoneをベッドに放り投げた。







「苗字さん、京都行くのやめたんですか?」

「…うん。行かない。赤司は赤司で楽しんでるみたいだし」


もう知らないよあんなやつ!そう言ってバニラシェイクを啜りながらテツヤくんと帰り道を歩く。とうとう赤司の誕生日当日になってしまった。「喧嘩でもしたんですか?」と尋ねてきたテツヤくんに「別に」と素っ気なく返したけどおそらく察したのだろう。


「また名前さんが無茶な我儘言ったんじゃないですか?」

「私わがまま言ったりしないよ」

「冗談はテストの点数だけにしてください」

「えっ」


至って真顔なテツヤくんに思わず殺意。同じ高校に入ってよく話すようになってからテツヤくんはなんだか私に対して毒舌になった気がする。


「…我儘っていうか、たまにはバスケより私を優先してほしいって言っただけだよ。赤司が忙しいのはわかってるつもりだけど、それでも年に一度の誕生日くらい一緒に居たいって思うじゃん」


毎年、私が祝ってたわけだしさ?まあ不仲の時期はワカメを玄関の前に置いたりしたけど。それをバスケが理由で断られるなんて!!!許さん!!


「私バスケやだ。だって私から赤司を奪ってっちゃうんだもん」

「まるでオモチャを取り上げられた子どもみたいですね」


まあ頑張ってください。なんて他人事のように(ほんとに他人事なんだけどね)軽い口ぶりでテツヤくんは私とは違う帰り道を行ってしまう。ばいばーい、とテツヤくんの背中に手を振って私も自分の家へ足を進めた。







「………」


時刻は23時50分。赤司の誕生日が終わるまであと10分。結局、赤司におめでとうを言うことなく12月20日が終わろうとしていた。iPhoneの画面に何度も【赤司征十郎】という名前を表示させるのにその下の通話ボタンが押せない。きっともう部活での誕生日パーティーは終わってるはず。やっぱり無理にでも京都に押しかけてしまえばよかった、と若干後悔したその時だった。いきなり着信が来てiPhoneを顔面に落とす。


「痛っ…!」


なんだよもう誰だよ。顔を摩りながら画面を見ると【赤司征十郎】からの着信。えっ!?思わずぎょっとしてベッドに寝転がっていた体を起こす。


「も、もしもし…?」

『オレだ』

「オレオレ詐欺ならお断りです」

『まだご機嫌斜めみたいだね』


電話越しの赤司の声はどこか楽しそうだ。そりゃそうだよな。散々みんなにお祝いしてもらったんだから。


「今更なに?おめでとうなら私が言わなくてもたくさん言われたでしょ?」

『別におめでとうが言ってほしくて電話したんじゃない』

「じゃあ何?」

『会いたいと思って』

「……っ」


言葉が詰まる。嬉しい。赤司がそう思ってくれたのは嬉しいけど、生憎素直じゃない私は結局悪態ばかりついてしまう。


「もう新幹線もないし今からなんて行けないじゃん。今更遅いし」

『うん、そうだね。だから会いにきた』

「えっ」


今名前の家の前にいるよ、赤司の言葉にお前はメリーさんか!とツッコミたくなったがそれよりも驚きのほうが大きくて慌てて窓の外を見た。


『寒いからはやく』


白い息を吐きながら赤司がこっちを見てる。ストーカーみたいな行為だがそれは彼氏ということに免じて許してやる。


「ま、待ってて…!」


私は急いで部屋を飛び出す。階段をドタバタと降りて玄関のドアを開けた先に赤司がいて私は思わず抱きついた。最後に会ったときより更に身長が伸びた気がする。


「赤司っ!」

「おっと…」

「なんで赤司いるの!?本物?幻覚じゃない?」

「これで本物だってわかる?」


赤司はぎゅっと私を抱きしめた。苦しい。でもあったかい。本物だ。幻覚じゃない。


「私には会えないって言ってじゃん」

「ちょうど最終の新幹線があったからね。オレの話を聞かずに勝手に電話を切ったバカな女に一言文句言ってやろうと思って」

「………うっ」


ニコニコしすぎて逆に怖い笑顔が私に降り注ぐ。「立ち話も難だからとりあえず名前の部屋にいこうか」と自分の家のようにズカズカと上がり込む。


「まあ座って」

「ここ私の部屋」


自分の部屋かのように振る舞う野郎はベッドに腰を下ろし私の手を引いて自分の隣に座らせた。


「じゃあまず名前の不満を聞こうか?」

「……別にないし」

「会えなくて不貞腐れてたのはどこのどいつだ」

「だって…」


赤司っていつもバスケのことばっかりだし。だから私に会えなくても平気なのかな?って不安になる。私ばっかりが赤司のこと好きみたいでバカみたいじゃん。


「私バスケが嫌いになりそう」

「なんで?」

「だってバスケは私から赤司を奪ってっちゃうんだもん。でもバスケをしてるときの赤司はかっこいいから好き。だけどたまに思うの。赤司がバスケをしなかったら京都に行っちゃうこともなかったし、寂しいって感じることもなかったのかなって。私って結構性格悪いよね。赤司の好きなバスケがちょっとだけ嫌だ。でも赤司にバスケやめてほしくない」


面倒な女だと思われるんだろうけど、私は思ったことを正直に言った。今更赤司に隠し事も何もないし。そしたら赤司はクスリと笑って「すごい矛盾してる」という。自分でも思う。言ってることがめちゃくちゃだ。


「オレは名前に会えなくて平気だと思ったことはないし、どちらかと言えばいつも名前のことを考えてるよ。確かに名前から連絡がくればいつも練習中だけど、それは名前の電話してくるタイミングが悪い」

「えっ」

「オレだって休みの日くらいゆっくりしてるよ」


尽く練習中にかけてくるから狙ってるのかと思った、と言われ開いた口が塞がらない。


「それに、どちらかと言えばオレのほうが名前を好きだって言える自信はある」

「なっ…」


ぎゅっと手を握られる。それすらもドキドキしてしまうのは久々に赤司に会ったからかな。


「あぁ、それと。オレがバスケを始めたのは名前が理由だよ」

「え、私…?」

「小学校のとき名前がクラスの友達とバスケをしてたのを見たんだ。あの時の名前はすごく楽しそうに笑ってた。それを見てオレも名前と一緒にやりたいと思ったんだ。だから母さんにバスケットボールが欲しいと頼んだ」


あ。私はその瞬間、思い出した。


「名前!母さんが買ってくれたんだ。一緒にバスケしよう」


小さい頃から赤司は英才教育を受けてたことを知ってた。毎日習い事や勉強が忙しくて一緒に遊べる時間は少なかった。だけどとある日、赤司が嬉しそうにバスケットボールをかかえて私のところに走ってきたのを覚えてる。


「バスケの楽しさを教えてくれたのは名前だった。オレにとってバスケは名前がいないと存在しない。だから名前とバスケ、どっちが大切かなんて選べない。どっちも大好きなんだ」


わかってくれるかい?赤司はそう言って私の頭を優しく撫でた。そしてハッとする。


「今、何分!?」

「59分」

「ああああああああ!!!!」


しまった!!!赤司の誕生日が!!!!いきなりムードぶち壊しにして申し訳ないけど、私は慌てて立ち上がり机の上にあった箱を赤司に差し出した。


「なに?」

「…誕生日プレゼント」

「開けていいの?」

「うん…」


包装紙を丁寧に開く赤司。私ならビリビリ破いちゃうけど。育ちの違いがここで現れるか。


「あ、バッシュだ」


箱から出てきたのは赤司がいつも使ってるブランドのバッシュ。結局なんだかんだ言っても私は赤司にバスケ続けてほしかった。私がバスケを嫌いになるわけなかった。赤司が好きなものは私も好きだから。



「ごめんね、いっぱいワガママ言って。本当は赤司のバスケが大好きだよ」

「うん」

「あと赤司とバスケするのも大好き」

「うん」

「でも一番はバスケしてる赤司が大好き」

「うん」



誕生日おめでとう、赤司



ちゅ、と触れるだけの赤司にしたら赤司は嬉しそうに笑って私を抱きしめた。


「ありがとう、名前」




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