彼女は蜂蜜みたいに甘い人だった
「敦そろそろ起きてよー」
「……ん〜?」
目を覚ますとぼやけた視界の中で彼女が笑ってた。よくここまで綺麗に笑えるなぁ、と毎度ながら整った顔立ちに感心する。別に面食いってわけじゃない。何となくこの人と一緒ならどんなことでも笑って過ごせるかもって思ったから。深いことなんて考えてない。一緒にいたいと思うんだからそれでいい。それが好きってことでしょ?
「見て、敦のシャツ着たらこんなにぶかぶか」
「何してんの名前ちん」
「敦の匂いがするなーって思って」
袖から手も出ないぶかぶかの俺のシャツを着て匂い嗅いでる名前ちんに「変態みたい」と言えば「敦の匂い好きだからいーの!」と返される。なんか可愛い。俺のシャツ着て、俺のものって感じがする。
「名前ちん、あんまり可愛いこと言うとまた襲うよ?」
「わっ…」
細くて白い腕を掴んでベッドの中に引き込むとあっさりと俺の腕の中に収まった。
「もう一回する?」
「しないよ、学校あるじゃん」
「サボればよくね?」
「ダメだよ。ちゃんと行こう」
「……」
名前ちんは不貞腐れた俺に困ったように眉を八の字にして小さく笑った。
「ねぇ、俺の匂いってどんな匂い?」
「え?うーん…なんだろ。ふわふわしたような、いい匂い」
「はぁ?全然意味わかんねぇし〜」
「なんて言ったらいいかわかんないんだもん」
でも敦の匂い好きだよ、と俺の腕の中でもぞもぞ動きながら言う。たぶん俺の腕から抜けてベッドから出たいんだろうけど、俺はぎゅっと抱きしめる力を強めた。
「敦…はやく準備しないと学校に間に合わないよ」
「別に間に合わなくても俺はいいし〜」
「私は良くないです!」
「いいじゃ〜ん、今日サボろ〜?」
軽くちゅ、とキスして何度か軽く口づける。「ね?いいっしょ?」と念を押すように名前ちんの顔を覗き込むと少しだけ顔を赤く染めて考えたのちに「…今日だけだからね」と小さく笑った。この「今日だけ」が月に3.4回あるからおかしな話だ。まあ今みたいに俺の我が儘に結局名前ちんが折れるんだけど。
「名前ちんさぁ、俺に甘いよね」
たくさんキスしながらポツリと呟いた俺の首に腕を回して、自分から唇を寄せてきた名前ちんはまた笑って「そうかも」なんて俺に言う。
「でも敦は甘いの嫌いじゃないでしょ?」