「サソリさ、昔泣き虫だったよね」
「はぁ?それはお前だろ」
「あとピーマン嫌いだったね」
「…………」
「それとさ、私に花の首飾り作ってくれたよね」
「…………」
やめろよ昔の話なんて。泣いてばかりの俺はもういない。涙すら流れないこの身体で食事だってしない。だから好き嫌いだってない。俺は傀儡なんだよ。お前にあげた花の首飾りも、結局は枯れてしまっただろう。永遠じゃなきゃ意味がないんだ。
「それとさ、」
「うるせーないつまで過去の話してんだよ!お前の知ってる俺はもういねーんだよ!」
俺がどんなに大きな声をあげたってアイツは笑ったまま。そして構わずアイツはまた昔の話をしようとする。俺はまた口を開いたアイツの口元を手で塞いだ。
「……いい加減にしろ。今すぐにでも殺されたいのか?」
じっと俺を見たアイツの瞳に俺が映っていた。そして力が入っていなかった俺の手を避けるとアイツはまた口を開く。どうやら学習能力がないらしい。
「サソリ、」
「………」
「昔、サソリって私のこと好きだったよね」
あぁ、そうだった。確かに俺はコイツが好きでたまらなく欲しくなった。でも一緒に里を出ようと言った俺にアイツは「ごめん」と一言告げたのだ。里を出てからもコイツのことだけは忘れたことがなかった。いや忘れようとしても忘れられなかったんだ。
「昔のサソリはいなくても、変わってないよ、サソリは」
「何言ってやがる」
「だってサソリ、今も私のこと好きでしょ?」
ねぇ、そうでしょ?って笑ったアイツは昔と変わらない笑顔を見せた。結構変わったものなんて何一つなかった。目の前のこの女も、俺の感情も。
ただ、ひとつだけ違うのは薄汚れた忍びの世界。
再会の場所がこんな戦場じゃなかったら俺たちにふたりの未来はあっただろうか。