「仁王と付き合うことになった」
「……へえ」
そんな報告をして俺にどうしろって言うんだよ。そんなくだらねえ話を元カレの俺に話して何になるって言うんだようぜえ。コントローラーを持つ手にぎゅっと力が入る。
「赤也…」
「なんスか…?」
「何で敬語なの」
前はため口で話してくれたのに、ってテレビの画面ばかり見て見向きもしない俺の背中に話し掛けてくる。
「ねぇ、先輩…」
「ほら、その先輩って呼び方も」
「俺らもう別れたじゃないスか」
「だからって急に敬語で話すの?名前も呼んでくれないの?」
「そうっスよ…」
「意味わかんない。敬語下手くそなくせに何なのよ。ねえ、普通に接してってば」
付き合ってた頃はこの人のこういうわがままで強引なところが嫌だった。すぐに自分中心で物事を進めようとするし。だいたい俺が敬語で話そうが何て呼ぼうが俺の勝手だ。第一、別れたって言うのに普通に接してとかおかしい。俺そういうの無理。それに別れた奴の家に来るってどういうことだよ。仁王先輩に怒られても知らねー。
「ねえ、さっきからゲーム進んでないけど」
「………」
「何怒ってんの?」
あームカつく。ゲームが進まないのも。この人のわがままなところも。強引なところも。仁王先輩と付き合ったことも。全部、全部気に食わない。気に食わないはずなのに…。どうして俺はこの人のことを突き放せないんだ。イライラする。俺はとうとうコントローラーをぶん投げた。やってられっか。こんなつまらねえゲームも、「先輩」とか無理にかっこつけて呼んでることも…。もう限界だ。降参します。
「俺やっぱ名前じゃなきゃダメだわ」