「苗字、授業くらいちゃんと受けや。サボりすぎてると単位なくなるで」
担任が偉そうに説教を延々とする中で私はイライラの頂点だった。お腹すいたし、帰りたい。
「苗字、聞いてるんか?」
「………」
「おい、苗字」
「うるさいハゲ!聞いてるわ!」
逆ギレ。職員室内が一瞬シーンとなったけど無視。そのまま職員室を出て、いつもお昼ご飯を一緒に食べてるユウジの教室に行こうとすれば廊下でばったり会った。
「お前、極悪人みたいな顔しとるで」
また担任にうるさいこと言われたんかって他人事のように笑うユウジ。まあ他人事なんだけどさ。
「お前来るの遅いから、来ないかと思ったわ」
「普通に来たし」
「まあ、ええわ腹減った」
「一氏くん、私いてええんかな?」
「誰?」
「は?蕪城さんやん」
ユウジの後ろからひょっこり出てきたのは蕪城さん。存在感薄くて気づかなかった。思わず「誰?」とか言っちゃったけどユウジが蕪城さんとかいうからすぐに理解した。
「あー蕪城さんね」
「知っとるやろ」
「うん知っとる」
ちょっと忘れただけだし。てか覚えたくもないし。ちゅーか、何でいんの?
「蕪城さんの友達今日休んだから、一人なんやて。せやから一緒に食おうて誘った」
「あっそ」
「やっぱ私邪魔かな?」
ええ、邪魔です。あなたは邪魔。
「んなことない!遠慮せんでもええって、なぁ?」
なぁ?ってこのタイミングで私に振るなよ。だから邪魔だってば、察しろ馬鹿女。自分の教室に帰りなさい。てかユウジのキャラ何なの。自分いい奴ですけどみたいなキャラまじキモイ。アンタ普段私にそんな優しくないじゃん。差別だ。
「私、自分の教室で食べるから歌舞伎さんと二人で食べれば?」
「は?いろいろおかしいけど、まず第一につっこまなあかんのは歌舞伎さんな。ちゃうから蕪城さんやし」
あぁ?歌舞伎さんでも蕪城さんでも何でもいいじゃん。とりあえず私は蕪城さんと共にお昼を過ごしたくありません。
「さようなら」
「ちょ、待てや何怒ってんねん」
「怒ってへん」
「怒ってるやん」
「怒ってへんて言うてるやん!」
「それが怒ってる言うてんねん!」
「黙れやボケェ!」
そう吐き捨てて私は走った。
「何なんアイツ、意味わからん」
ユウジが私の背中に向かってポツリと呟いたのが聞こえた。それはこっちのセリフだ。
「ほんま腹立つ!あのクソ」
むしゃくしゃして自分の教室に帰ってきた。乱暴にドアを閉めたら、学級委員長に「物に当たらないで!」って怒られた。私、委員長嫌い。偉そうだし、私にだけスカート短いって注意してくるから。たかが学級委員の分際で私に楯突こうなんて100億光年早いのよ。
「何や、ずいぶん機嫌悪いな」
「はあ?何?」
「そう睨むなや」
声をかけてきたのは白石。白石は私の隣の席だからよく話す。ユウジとも部活が一緒だからそれなりに仲もいい。あと謙也も。
「苗字が機嫌悪い時は大抵ユウジ絡みやな」
「変な分析やめて」
「すまん、すまん」
「………」
「………」
白石は鋭いから嫌だ。私が顔に出やすいからってのもあるけど白石は質が悪い。でも、すごく人のために一生懸命な白石は本当にいい奴だと思う。私、白石を好きになればよかったな。何でユウジなんやろ。思えば、ユウジを好きになった理由って何なんだろう。