「暇だ…」
ソファーにダイブして何もない天井を見つめてみるけど、本当に暇だ。本来ならば学校に行っている時間なのに、生憎私は先日の蕪城さんとの喧嘩が教師たちにバレて2週間の停学になった。自分でもやりすぎたって自覚はあったし、仮にも彼女をボコボコにしてしまって何も知らないユウジには申し訳ないことをしたと思ってる。だから今さら会わせる顔なんてなかった。
それなのに!
「なにしてんねん。停学とかありえへん」
「…………」
バタン!
コンビニ行こうとして玄関出たらユウジがおったから即行ドア閉めて鍵かけた。ちょっと待って。何で来たの?え?まさか彼女の敵ィィイイ!!とかそんなの?
「おい。ドア開けれやブス」
「ブスちゃうから無理です」
「いいから開けれ言うてんねん!」
「おい!人ん家のドア蹴るんじゃねー!」
ということが数日間続きまして、全面的にユウジをシカトしてます。それ以来、毎日家に来るし電話もメールもLINEも来る。挙げ句の果てにはTwitterでつぶやくんだから質が悪い。しかも財前がリツイートしてるのが更にうざい。
そしてユウジの突撃お宅訪問戦争が1週間たった頃。
ピンポーン、と無機質な音が響く。今日も私は部屋でゴロゴロしている。ダルい体を起こして玄関に向かう。訪問者がユウジじゃないってわかったから。ユウジなら何も言わずに入って来ようとするし、あいつにはインターホンを鳴らすという感覚がないからだ。
「はぁーい。どちらさんですか?」
「あたしよぉー!こ・は・る!」
ドア越しに聞こえる声は小春だ。小春って優しいから、いつも私のこと気にかけてくれる。もしかして小春私のこと心配して来てくれたのかな?なんて期待しながらドアを開けた。
「こは……」
「ハッ!騙されよったな馬鹿女!」
フリーズした。小春の姿なんてどこにもなかった。あったのは大爆笑してるユウジの姿だけ。うざいしなんか腹立つ。あー。私こいつを見くびっていた。ユウジにできないモノマネはないんだ。小春の声なんて簡単に真似できる。騙された。
「ドア開けたお前が悪いんやで」
ほな邪魔するでー、とズカズカ人ん家に上がり込んで勝手に私の部屋に行く。もー腹立つ!殺したい!
「何でお前の部屋は毎回汚いねん」
「………何しに来たの?私に何か用?」
「やっと顔見れたと思ったらやっぱ腹立つなお前の態度」
「用件だけさっさと言って帰って」
こんな可愛くない態度だってしたくてしてるわけじゃない。もっと普通にユウジと笑っていたいのに、ユウジを目の前にするとこんな態度しかとれない。そんな自分に腹が立つ。
「…ミサから全部聞いた」
「……………」
「お前…俺のこと好きやったんか?」
「えっ…」
待って。何言ってんの?私そんなこと蕪城さんに言ってないし。ちょっと動揺を隠しきれません。
「それで彼女のミサが邪魔やったんやろ?」
「…な、何言ってんの?」
「あいつ…お前のこといい人やって言うてたし、お前と仲ようなりたいってずっと言うてたんやで?せやけど、お前があんなことするから、あいつショック受けてん…」
「ちゃうわっ…!そんなの…」
嘘だよ。あの女、私がいない間にユウジになに吹き込んだんだよ。私を悪役にしてさぁ、ほんとズルいよね。ある意味すごいわ。どうせ嘘泣きでユウジにすがり付いたんだと思うけど。そこまでして白石を手に入れたいのか。それとも私とユウジの関係を壊す気?
「お前の気持ちに気づいてやれんかった俺も悪いけど、ミサに手ぇ出したらあかんやろ…」
ふざけないでよ。何で私ユウジに告白してないのに、ちょっと振られちゃった感じになってんの。ねぇムカつくからそういうのやめてよ。どっちにしろユウジは今も私の気持ちに気づけてないやんボケ。
「あんなぁ、私トイレで蕪城さんがユウジのこと利用してるって聞いたから怒ったんやで。蕪城さんは白石が好きやから白石に近づくためにユウジと付き合うたって。だからムカついてぶん殴ってやったん。私もやりすぎたかもしれんけど…それって蕪城さんの」
「名前!もういい加減にせぇや。言い訳とか聞きとうないわ。どんなにミサが傷ついてるかわかるか?俺かてお前がそんなことするやつなんて思いたないねん…。せやから、ちゃんとミサに謝っ…」
なにそれ。
え、私ユウジに信用されてないの?私が嘘言ってるとでも思ってんの?傷ついてるのは蕪城さんじゃない。もう心折れた。無理。泣きそう。
「…………ええわ、」
「は?」
「……もうええわ!!ユウジに話した私が馬鹿やった!」
堪えてた涙は一気に溢れた。床にポタポタこぼれていく。ユウジはそんな私を見て驚いてるけど、もう知らない。
「何で1ヵ月近くしか一緒に居らん蕪城さんの言うことは信じて、何年も一緒に居る私のことは信用してくれへんの!?そういうところがムカつくねん!ユウジのためにした行動も馬鹿みたいやん!」
「…………名前、」
「もうええわ。どうでもええ。はよ帰って」
「ちょ…待てや名前」
「もう名前も呼ばないで。アンタのこと…大っ嫌いや。顔も見とうない」
無理矢理ユウジを部屋から追い出してドアを閉めた。ドアに背中を預けたらズルズルと崩れ落ちた。遠くなるユウジの足音。もう元に戻ることはない。
さようなら…私の親友
そして大好きだった人