「貴様!何だそのだらしのない格好は!髪型もピアスもだ!貴様の学校はどうなっている!たるんどる!」
「うっさいわね!アンタの学校こそどうなってんのよ!私に言う前に自分の学校の連中どうにかしたら?」
「今は貴様の話をしている!その曲がった根性叩き直してやる!コートに入れ!」
「何でそうなるのよ!私マネージャーなの!」
立海の奴らが来たと思ったらいきなり真田に説教されている名前。それを見て俺の隣におった財前が面倒臭そうに「俺もあの人に怒られるのは勘弁してほしいっすわ」なんて言いながらピアスを外していた。金太郎とじゃれていた千歳もさりげなくピアスをポケットにしまう。お前ら…。
「いいか!今度また会ったら直しておけ!」
「アンタになんかもう二度と会わないし!」
そう言うてズカズカとこっちに向かって歩いてきた名前は俺の目の前で立ち止まると鋭い目付きで睨んできた。
「何で私だけ怒られんねん!」
「…………」
えええっ、何で俺がキレられるん?
「名前さん俺にもメアド教えてくださいよー」
「何で?」
「丸井先輩だけずるいっス!」
「名前ちゃん、まーくんにもー」
「え、仁王キモいんだけど」
「お前ら俺の名前に手ぇ出すなよぃ」
「いやお前のじゃねーよ」
丸井と切原と仁王が名前を囲んで楽しそうに話しているのが視界に入って、ようわからんけど俺は腹が立っていた。理由なんてわからんけど何かムカつくねん!そんなんやから試合にも集中できん…。消え去れ、俺の煩悩!!
「ユウくんっ…!」
「え?」
小春の焦ったような声が耳に入って我に返る。その瞬間、物凄いスピードで飛んできた打球が俺の顔面にクリーンヒット。しかもその打球は真田の風林火山…。
「あかん、三途の川が…」
「ユウくん!しっかりせえや!ユウくんが死ぬならあたしも一緒に!」
「小、春…、お前は、生き、ろ…」
「ユウくぅぅぅぅぅううん!!」
「ねぇ、そういうコントええから早く起きて」
コートの中心で愛を叫ぶネタをいきなり中断される。見上げれば名前。ぶっ倒れた俺を見下ろして「かっこわる…」と呟いた。俺の眉間にシワが寄る。
「誰のせいでこんなんなったと思ってんねん…」
「は?私のせいって言いたいん?」
私が何したって言うのよ、って俺を睨む。
「お前が俺の視界におったからやろ」
「……あっそう、ほなもうアンタの視界には入らんから」
これで最後、そう言うて俺の目の前にしゃがみこんだ名前は掌を俺の頬まで持っていった。また殴られる…!そう思ってぎゅっと反射的に目を瞑った。
「……冷たっ」
来ると思ってた衝撃は来なくて、代わりに頬にひんやりとした感覚が伝わる。そっと頬に触れれば湿布が貼られていた。そして手に持ってた湿布のゴミをくしゃりと握り潰した名前は立ち上がる。もしかして俺のために持ってきたんか?
「蕪城さんじゃなくて悪かったね」
「…………」
皮肉にもそんなことを言うて俺の前から去っていった。俺の代わりに小春がお礼を言うてたけど俺は驚きで開いた口が塞がらなかった。
「お前の顔はタイプだぜぃ。性格はちょいキツイけど」
「アンタは顔も性格も私のタイプちゃう」
「え?じゃあ付き合う?」
「アンタ私の話聞いてた?」
休憩中、また丸井と名前が一緒におるとこを見つけた。気に入らない。そして仁王と切原も寄ってきて何か話しとる。
「名前さん彼氏いるんスか?」
「おらんけど」
は?ちょっと待てや。
俺は名前の言葉で歩くのをやめた。今「おらん」って言うた?待て待て。千歳はどうしたんや。訳がわからんくなった俺は暫し考え込む。すると俺の後ろからタイミングが良いんか悪いんかわからんけど千歳が歩いてきた。じっと千歳を見つめていたら「ん?」なんて能天気な顔で首をかしげる。
「どうかしたと?」
「千歳お前名前とどうなってん」
「別れたとよ」
あっさりと答える千歳は「名前から聞いてなかと?」と聞き返した。阿呆。聞いてへんから今こない驚いてんのやろ。俺の足は無意識に名前の元に向かっていた。
「名前!どういうことやねん!」
「………は?」
「あーもう!意味わからん!」
「何が?てか私のこと視界に入れたくないんちゃうの?」
「黙れや貧乳」
今そんなことどうでもええねん。あれ俺自分勝手?まあええわ。
「俺、別れたなんて聞いてへんで」
「また盗み聞き?アンタ盗み聞き好きだよね」
「ちゃうわボケ。俺の声が嫌でも耳に入ってくんねん。耳腐った俺の耳に謝れ」
あれ。こんな会話いつだかもあった気がする。え、なになに?名前誰と付き合ってたんだよ、なんて興味本意で聞いてくる丸井はこの際無視。俺は名前の腕を引いて歩き出した。
「ちょ…離して」
「…………」
「おい無視してんじゃねーよ!」
「いだっ!?」
少しコートから離れた場所まで来たら、いきなり後ろから蹴られてうずくまる。何やこの乱暴女。睨んだら睨み返された。
「ねぇ何なのアンタ」
「千歳と別れたこと俺聞いてへん」
「だってユウジに言うてへんし」
「何で言わんねん」
「ユウジに関係ないやろ?」
何やねんそれ。お前最近そればっかやん。俺には関係ないって。何で何も言うてくれへんの?前は気ぃ遣うことなんてなかったし何でも話せたやん。今の俺ら前と何かちゃうやろ?これが親友?親友って何?俺らって…何?
「…お前にとって俺って何?」
「…………」
「なぁ、」
「…さぁ?わかんない」
無表情で答えた名前に俺は少なからず腹を立てた。そして「でも、」とアイツは続ける。
「もう疲れた。アンタと友達ごっこすんの」
そう言うた名前は真っ直ぐに俺を見て言うたんや。
「もうやめる。アンタの親友」
気付けば俺は名前の肩を掴んでいて自然に力が入っていた。「痛い」と言う名前の言葉なんか完全に無視した。
「それ本気で言うてんのか?」
「まじ。もうええやん。アンタの隣には蕪城さんがおるやろ?私がおらんくても平気やん」
小さく笑う名前がうざかった。腸が煮えくり返りそうになる。阿呆くさ。何や親友やと思ってたんは俺だけやったんか。ほな、何でさっき俺に優しくしたん?俺に湿布持ってきたりなんかして。何で?何で…そない辛そうな顔すんねん。
「…なぁ、」
「ユウジ…?」
名前に声をかけようとしたら、後ろから俺を呼ぶ声がした。声ですぐにミサやってわかった。振り返れば案の定そこにはミサがおって不安げに俺を見ていた。咄嗟に掴んでいた名前の肩から手を離す。
「…休憩、終わりやって」
「…おん」
「私、先に戻っとるね…」
ミサはまたいつものように笑って戻っていった。俺もその後に続いて歩きだした。でも少し歩いたところで振り返って名前を見たら、今にも泣きそうな顔で俺を睨んでた。
「何してんの?早く行けば?」
冷たく放たれた言葉に俺は小さく舌打ちをして再び足を踏み出した。