「なぁ名前〜」
「…………」
「何でイライラしとるん?ちゅーか、そのジャージでかない?」
「ええの!ほっといて」
結局、面白がって私について来た金太郎は能天気に私の隣を歩く。もう何かいろいろムカつくの。何でユウジと蕪城さんがイチャイチャしてるとこなんて見なきゃいけないの?それに何か言いたげに私の顔見たりしてさ。結局何も言わないし。何なのよ。ユウジのせいで私が言いたいこと言えなかったじゃん。え?何言いたかったのかって?そりゃあ、蕪城さん一回シバいていい?とか昔から靴紐の縛りかた変だよとかやっぱり蕪城さん二回シバいていい?とかこの間殴っちゃってごめんとか。もう何でこんなに空回りするわけ?ユウジもユウジのことでモヤモヤしてる私もムカつくの。あーもうあんなヤツのこと考えるのやめよう。ストレスでハゲる。
「てかさ、」
「んー?なにぃ?」
「金太郎いつの間にか私と目線が同じなんやけど」
中学の時は私の方が高かったやん。金太郎チビだったし。今じゃ目線が一緒…いや若干金太郎の方が高い。ほんとに少し。アンタいつから私と対等な身分になったのよ。いや元からコイツに上下関係なんてなかったけど。先輩のこと全員呼び捨てだしね。
「名前が縮んだんちゃう?」
「そんなわけないやろ…って、うわあ!?」
金太郎の頭を見上げて歩いていたら何かに引っ掛かって転んだ。それも随分ダイナミックに。ちょっと金太郎なに爆笑してんのよ。金太郎以外に誰もこの瞬間を目撃していないことを確認して周りをキョロキョロしていた。すると私の足元にでかい生命体を発見。私の元カレ、千歳千里くんだ。木の下で気持ち良さそうに寝ているのだ。私が転んだ原因がコイツなのだと悟る。どこでも寝れるコイツは凄いと思う。
「ははは、大丈夫かぁ?名前」
「アンタ心配すんのか笑うのかどっちかにしなさいよ」
少なからず金太郎に殺意が芽生えながら私は千歳を起こす。
「千歳、起きてー」
「……名前と金ちゃん?」
何やっとると?なんて間抜けな顔が私たちに問う。見てわかんないの?アンタのせいで転んだんだよ。アンタ無駄に足長いから。
「すまんね、怪我してなか?」
「ん、大丈夫」
それより白石がコートで待ってますよサボリ魔くん、そう伝えると千歳は笑いながら「怒られるばい」なんて頭を掻く。私はそんな千歳とはしゃぐ金太郎を連れてコートに向かおうとした。その時だった。いきなり横から現れた男が私の腕を掴んで引き止める。思わずびっくりして変な声が出た。決して「きゃっ」なんて女の子らしい声ではなかった。
「なぁ、お前名前だろぃ?」
「はぁ?」
「なぁ、お前名前だろぃ?」
首を傾げれば目の前にいる赤い頭の男はくちゃくちゃとガムを噛みながら同じ質問をする。聞こえてますけど。そうだけどさ、お前誰だよ。何で私の名前知ってんの?怖いんだけど。ソイツの後ろでと同じジャージを来た連中も私を見ていて、それも怖い。
「やっぱ名前だろぃ!覚えてねぇ?」
「覚えてねぇも何も、アンタなんか知らない」
「はあ?ちゃんと顔見ろって!俺だよ俺!」
「オレオレ詐欺なら他所でやって」
なに堂々と人の前でオレオレ詐欺しちゃってんの。それ電話でするもんでしょ。馬鹿やろコイツ。素っ気ない態度の私に目の前の男がムッとする。するとその後ろから出てきた青い髪の美少年がクスッと笑った。
「変わってないね、苗字さん」
「…………?」
「中学の時に会ったの覚えてない?」
中学?普段使ってない頭をフル稼働させて記憶を辿る。すると後ろから金太郎が馬鹿でかい声で「立海の大将さんやー!」と言いながら走ってきた。立海?聞いたことのある名前に首を傾げる。
「確か中学の時に俺たちが遠征で来た時もマネージャーやってたよね?」
そしてようやく奴らが立海のテニス部だと思い出した。中二の時、私は今日みたいに臨時マネをしていて、その時の相手が立海のテニス部だったのだ。それで目の前の赤髪と仲良くなったのを思い出した。そういえばメアドも交換したっけ。メールなんて全然しなかったけど。確か名前は…、
「ブン太?」
「そう!やっと思い出した?」
「うん。ごめん完全に忘れてた」
で、青い髪の奴が幸村。一見穏やかな奴に見えて尋常じゃないほど腹の中が黒い男だったのを覚えている。そして、その隣にいる銀髪が仁王雅治。ブン太と一緒にいたから何となく仲良くなったけど、コイツなに考えてるかわかんないし掴み所がないところが苦手だった。今更ながら知った顔がほとんどで私の記憶力を心配した。あれ?でも知らない顔が一人いる。じーっと見ていたら目が合った。
「名前なんて言うの?」
「赤也っス!」
「赤也クンね、私名前」
よろしくっス!なんて人懐っこい笑顔で言ってくれた。赤也クンはブン太たちの後輩で前回遠征で来た時はまだテニス部に入っていなかったらしい。それで初めて見たわけだ。髪がくるくるしてて可愛い。
「赤也クン可愛いなー弟にしたい」
「名前さんの方が可愛いっス!」
「私可愛い?だよねー赤也クン見る目あるよ」
「ふふ、苗字さん?とりあえず早くコートに案内してくれる?」
「私アンタらの案内役とちゃうんやけど」
「いいから早くしなよ、ふふ」
私、幸村嫌い。