名前がポニーテールなんかしとるのを久々に見た気がする。確か前に見たのは体育祭の時やった。何かええな、なんて思ってる俺はきっと太陽の熱で頭をやられたに違いない。1年のときに発注ミスしたダボタボのジャージを羽織りながらコートの横をダルそうに歩く名前を横目で見ながら靴紐を結ぶ。練習試合である今日、名前は臨時マネとしてここにおる。アイツ要領はええから仕事もちゃんと覚えるし文句を言いながらもなんだかんだでしっかり仕事をこなすから偉いと思う。まあ口が避けてもそんなことアイツには言うてやらんけど。…あ、目ぇ合った。


「何?」

「…別に」

「あっそう……」


素っ気なく返した俺にアイツも素っ気なく返す。そしてそのまま俺の目の前を通り過ぎた。アイツ何か言いたそうな顔しとった。俺も言いたいことならあった。ジャージ買い直せとかお前なんでそんな貧乳なん?とか何で最近千歳と一緒におらんの?とかお前なんでそんな貧乳なん?とかこの間お前の髪型似合わへんとか言うてすまん。あれは嘘でつまりほんまはその髪似合ってた、とか。過ぎていったアイツの小さな背中を見て思う。後悔…してるんやと思う。いつの間にか名前とこんな曖昧な関係になったこと。俺ら何でこんなんなってしもうたんやろな?前なら当たり前のようにアイツが振り返って俺に笑いかけてたのに。また前のようにアイツが振り返って笑ってくれるのを期待したけど、結局アイツは振り向くことなんてなかった。あーもうムカつく。


「ユウジ…?」

「あ、ミサ」

「どないしたん?苗字さんのことじっと見て」


気付けば隣にミサがおった。彼女がおったのに気付かんとか俺どんだけ。ミサは俺の顔を覗き込むと首を傾げた。


「まだ苗字さんと仲直りしてへんの?」

「……別にせんでもええわ」

「ユウジには私がおるよ。私はずっとユウジの隣におるから」


なんやコイツまじ天使。うわー俺のエンジェル。ほんま可愛すぎて血ぃ吐きそうになるわ。せや、俺にはミサがおる。それにアイツにも千歳がおんねん。あんなヤツどうでもええやん。アイツのことを考えるのなんてやめや。そう自分に言い聞かせる。


「ミサがおってくれて俺幸せやで」

「私も。ユウジが大好きやで」


笑ったミサがむちゃくちゃ可愛くて思わずにやけた。その笑顔でご飯30杯はイケるわ。ミサの頭を撫でれば目を細めて笑う。近くにいた財前が「先輩ら準備中にイチャイチャすんのやめてください」なんて言うてきたけど無視。イチャイチャちゃうわ。ニャンニャンしとんねん。「は?キモ」とか言う生意気な後輩は後でシメる。


「あーもう!うざい!」


するといきなり俺らから少し離れたところで名前が急にネットを蹴った。こらお前、俺たちの聖地に何すんねん!と心の中で怒りつつアイツを目で追う。白石に詰め寄るアイツはムッとした顔で何か話してた。


「対戦相手はまだ来ないの?何してんのよ!いつまで待たせるわけ?」

「わざわざ遠いとこから来てくれるんやからしゃーないやろ」

「ちゅーか千歳は?アイツ私に仕事押し付けてどこでサボってんのよ」

「苗字、探してきてや」

「はあ?何で私が。アンタ部長やろ?責任持ってアンタが行きなさいよ」

「俺、今忙しいねん。苗字仕事終わったんやろ?頼むわ」


名前の周りを見れば、ちゃんと人数分のドリンクとタオルは用意されとるしボールだって均等にカゴに入っとる。「仕事早いやん。偉い偉い」なんて子どもをあやすように白石が名前の頭を撫でたから少しイラっとした。あれ?何で俺イライラしてんのやろ?


「名前!ワイも行くでー!」

「は?ヤダし。金太郎来ないでよ」

「先輩、寂しいんなら俺も行ってあげましょうか?」

「財前は絶対来んな。それに寂しないし」

「ほな浪速のスピ…」

「うるさい謙也」


名前を囲んで楽しそうに話すアイツら。前はあの輪の中に俺もいて、名前と一緒に笑ってたのに。そんなことを思った。するとそんなアイツらを見ていたら俺のマイハニーがふいに口を開く。


「何で苗字さんの周りには自然とみんなが集まるんやろ?」

「え?」

「苗字さんはマネージャーやないけどマネージャーの私より仕事早いし、みんなから必要とされてるって感じ。私って必要ないんかな?」

「んなことない。アイツは前に何回かマネやってるから慣れてんねん。それにアイツらと付き合い長いし。ミサはマネなったばっかやろ?これから慣れてくし、みんなだってミサのこと必要としてるで」


うん…。とミサが小さく笑う。俺はそんなミサの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「でも、全部私から奪っていくの…」

「………え?」

「あっ、ううん。何でもない?」


小さく呟いたミサの言葉はハッキリ聞こえなかった。何でもない、とニコリと笑うミサに俺は聞き返すことはしなかった。変な違和感を感じたけど「ユウジ今日も頑張ってね」なんて天使のようなスマイルを俺にくれたから完全にノックアウト。

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