「頼みがあんねんけど、」
「無理」
「まだ何も言うてへんやろ」
白石がわざとらしくため息をついたのは昼休みになった直後。白石の頼みって毎回ろくなことにならない。委員会代わってとか日直の仕事手伝ってとか。何かとパシり。コイツ爽やかな顔して考えてることに悪意を感じる。
「次の土日の練習試合のマネ手伝ってほしいねん」
「はぁ?また?嫌やし」
この頼み事は過去2回ほどある。テニス部にはマネいないし、ユウジの友達の私が何かと使えるみたいな感じになって練習試合に駆り出されたことがあった。でも今は蕪城さんがいるわけじゃん。私が行く必要なんてない。
「もしかして千歳と別れてから気まずいん?」
「いや、それはないけど」
千歳とは別れてからも普通に話すし、気まずくはない。いらぬ気遣いだ白石。「じゃあ何で?」白石は問う。
「決まってるやん。蕪城さんがおるから」
「そこを頼むわ。練習試合の相手校もマネおらんのや。蕪城さんマネなったばっかやし一人やと大変やん」
「精々、苦労するとええやん」
「そう言わんで。な?自分、前に経験あるから頼もしいやん。みんなかて期待してるんやで」
「過去2回だけの経験者に何を期待しとんの?」
とにかく頼むわ!それだけ一点張りの白石にいつの間にかいた謙也まで頭を下げる。
「……わかった、ええよ」
「ほんま、おおきに!今度たこ焼き奢ったるわ」
「わーい!」
たこ焼きで喜ぶ私に謙也が「単純なやっちゃなぁ」なんてぼやいていたけど無視。たこ焼き食べれるなら頑張る私。つい浮かれて金太郎にたこ焼き自慢しに行こうとして廊下をスキップで爽快に進んでいくと、廊下の曲がり角でタイミング悪く蕪城さんに遭遇。テンション一気にがた落ち。名前のテンションが100下がった。名前のやる気が60下がった。名前の殺意が200上がった。レベルアップ!
「…………」
「苗字さん!」
無視して通りすぎようとしたら呼び止められる。なんだよ気安く苗字さんなんて呼ぶんじゃねー。苗字さま、だろうがよぉ。アンタに費やす一分一秒でも惜しいってくらいだ。
「………何?」
「マネージャーの話聞いた?」
「聞いたけど」
「大丈夫?」
「…なにが?」
なにが大丈夫?なんですか。頭?生憎だけど私の頭なら正常に機能してるから問題ない。余計なお世話だよブス。
「あの…ほら、ユウジと前に喧嘩してたやん」
「あぁ、そのことね」
「ユウジと苗字さん親友だって聞いたから…」
「今は親友って言えるのかわかんないけどね」
「今、仲悪いもんね!」
笑って言うことじゃねーよ吊るすぞ。
「けど私心配してるんやで?苗字さんマネ引き受けてくれたらユウジとまた喧嘩してまうかもしれんって…」
心配?お前、今の自分の顔鏡で見て来いよ。すげーひねくれた顔してるよ。まるで喧嘩した私たちを嘲笑ってるかのように。あぁ、そうか。この子ユウジの親友ポジションにいる私が邪魔なのか。きっと私を臨時マネにしたくないんだ。
「ご心配ありがとう。でも大丈夫だから。アイツとよく喧嘩するし気にしてないから」
私はそれだけ言って蕪城さんの横を通り過ぎた。多分、今の私は相当ドヤってる。
「………チッ」
あれ?舌打ちが聞こえたのは気のせい?