「苗字って可愛いよな」
教室でクラスメイトがアイツの話をしていたのを俺は聞いていた。アイツ顔だけは無駄に整っとるから周りからの評価が高い。だからそれなりにモテるのも前から知っとる。それなのに俺はなぜかイライラしていた。他人がアイツの話をしてるとイライラする。名前は俺の親友なのに。そんな子供染みた独占欲。まるでオモチャでも取り上げられた子供みたいだと自分で思って情けなくなった。
「名前、パーマかけたと?むぞらしか〜」
アイツが急にパーマかけたとか言ってコートに来た。可愛い自分を自慢しにきただけやって。そんな名前に俺は腹が立ってしょうがなかった。可愛くなってどないすんねん。他の男に愛想振り撒いてどないすんねん。周りに可愛く見せようとする必要なんてないやん。俺だけがお前のことを知ってたらそれでええやん。それなのに「千歳に夢中」とか訳のわからんことを言いよるアイツに俺はイライラして最低な一言を言った。
「その髪似合ってへん」
別に本心やない。ぶっちゃけ似合ってると思った。けど何か俺が認めたら負けだと思った。そして殴られて後悔する。
「いくらモテたって、肝心な誰かさんに見てもらえなきゃ意味ないの!馬鹿!死ね!ハゲ!」
返す言葉ならたくさんあった。肝心な誰かさんって誰?とか俺ハゲちゃうわ!とか黙れ貧乳とか。それなのにアイツが今にも泣きそうな顔をしてるから言葉が喉の寸前で止まってしまう。走り去ったアイツの小さな背中を見つめて俺は殴られた頬を手で擦る。ほんまに痛い。心まで痛いのは何で?
…………
「名前、」
「…………」
「帰ろかね」
玄関で膝に顔を埋めていた私に千歳は手を伸ばす。顔を上げると泣いてた私の見て「目ぇ真っ赤たい」と笑った。そして家までの道のりを二人で歩く。
「…………」
「…………」
「…ユウジは本気じゃなか」
「え?」
「似合ってへんって言ったのは強がりばい」
「そう?かなりまじっぽかったけど」
千歳なりに私を慰めてくれるのだと思う。そんな千歳の優しさにまた泣きそうになった。
「……私、千歳に甘えてばっか」
「構わんばい」
「…千歳は優しいよ」
「………」
「私なんかに優しくするのは勿体ないよ。もっと他に良い子がいるはず。私といると千歳は傷つくだけ」
私は静かに千歳の手を取る。最初で最後に繋いだ千歳の手は温かかった。たくさん千歳のことを利用した。それでも千歳は私なんかに笑いかけてくれたね。最低だね私。ごめんなさい。そしてありがとう。
「………」
「千歳、」
「……ん?」
「別れよっか」