「あらっ、名前ちゃんパーマかけたん?」

「そ。似合っとる?」

「むっちゃ可愛えでー!」

「きゃーありがと小春大好きー!」


ほら私って可愛いじゃん?だから何しても似合うんだよね。だからさ、こうして廊下歩いてるだけで男子とか振り返るし二度見三度見普通にある。どこぞの誰かが「苗字可愛くね?」なんて小声で話してるのが聞こえて優越感に浸る。気分が良いからテニス部まで行って千歳にでも自慢しよーかなーって行ってみたら第一に小春からお褒めの言葉をいただいた。これでユウジに見せたらアイツ蕪城さんから私に乗り換えちゃったりして、なんて馬鹿げた妄想でもしてみる。


「みんな頑張りやー!あと3周やでぇ」


コートから甲高い声が聞こえて振り返ると見慣れたジャージを着て何だか酷くぶりっ子な蕪城さんがいた。思わず吐き気。


「蕪城さんマネージャーになったん?」


近くにいた白石を連れ出して聞いてみる。「せやで」とあっさり返ってきた言葉に私は殺意を覚えた。


「何かムカつくからやめさせてよ」


私の言葉に困ったように白石は笑う。「一生懸命やってくれてんやで」だって。そりゃ大好きな彼氏の前でダラけるやつなんていないだろ。私だってきゃぴきゃぴして頑張るわ。


「私、一回裏庭に呼び出してシメてこようかな」

「あかんで。んなことしたってユウジが喜ばんやろ?」

「………そうだね、ごめん」


白石は大人だ。私の頭の上に手をおいて「偉い偉い」ってポンと軽く叩く。ホントに私ガキみたいだ。するとコートの方から千歳が私を呼んでることに気付いた。私は渋々彼の元に歩み寄る。


「練習見に来てくれたと?」

「ちゃうわ。私のパーマを見せびらかしに来ただけ。どう?」

「むぞらしか〜」

「だよね、だよね」

「髪も染め直したと?」

「気付いた?色落ちてきたから染め直したの」

「名前のことなら何でも知っとるばい」


すげー千歳。私のことちゃんと見てくれてるんだなって、珍しく人からの愛情を感じた。でも私は千歳に何も返してあげれてない。いくら千歳が私を見ていてくれても、私が見てるのはユウジなんだから。私ってずるい。このまま千歳に甘えていたらダメだ。私にとっても、千歳にとっても。


「…………」

「………名前?」


千歳は私の顔を覗き込む。「そげん顔してどうしたと?」って。そげん顔って。私変な顔でもしてたか。


「千歳、」

「ん?」

「今日一緒に帰ろ」

「…珍しか、名前から誘うなんて」


私はただ笑って見せる。


「…ほな教室で待ってる」


そう言って歩き出そうとしたら腕を掴まれて進めなくなってしまった。


「せっかくやし練習見てけばよか」

「えー、面倒くさーい。それに蕪城さん視界にチラついてうざいから嫌や」

「そげん言わんと、な?最後くらい俺のテニス見てって」


「最後」千歳がそう言った。この時、千歳は私が何を考えていたのかわかっていたんだと思う。千歳はいつも私を見ていてくれたから。何となく千歳が悲しそうに笑った気がした。







「あと4球ばい」


千歳のテニスを見たのは初めてだった。千歳って自由人だから練習に来ないで散歩に行くときあるらしいから。ぶっちゃけ人間のレベルを越えてると思った。思わずお前は超能力者か、と突っ込んでしまった。まあ言ってしまえばここにいるやつ全員おかしいんだけど。金太郎に関してはもう何をしているのかわからない。何というか、やつらはテニスをしているというよりビックリサーカスでもやっているように思える。ユウジのテニスだって、そのタイミングでなぜモノマネ?って時がある。前は嫌ってほど見ていたユウジのテニス。物凄く楽しそうに笑ったユウジを見て、私も笑ってた気がする。今はお互いに笑い合うことなんてなくなっちゃったけど。なんて思いながら意味もなく白石のモノマネをしているユウジを見ていると目が合う。でもすぐに逸らした。でもヤツはそれを見逃すわけがなく、私の方に向かってくる。


「なぁ、」

「はい?」

「今俺のこと見てたやろ?」

「自信過剰。私は千歳に夢中なの。そこ邪魔」


いやバッチリアンタのこと見てたけどね。でも認めたら負けだと思ってる。てかユウジだって私のこと見てたやん。じゃなきゃ私の視線に気づかないでしょ。バーカバーカ。あれ私ガキっぽい。


「ムカつく」

「は?」

「その髪似合ってへん」

「……はぁ?」

「ちょっとモテる思って調子に乗んな」


ぽかーん。コイツ何言ってんの?何でアンタにそんなこと言われなあかんの?うっざ。ムカつくムカつくムカつく!それだけ言って去って行こうとするユウジを引き止めて、気がつけば私の右手がユウジの顔面に飛んだ。パァンと乾いた音が響いて周りも静まり返る。


「………痛、」

「……いくらモテたって、肝心な誰かさんに見てもらえなきゃ意味ないの!馬鹿!死ね!ハゲ!」


目に溜まった涙を溢さないようにコートを走り去った。ちょっとガチで叩いちゃった。でもいいや。少し痛い目見ればいいんだ。




「いたー…俺ハゲちゃうわボケ」

「ユウくん、今のはあかんで」

「小春ぅ、何で俺殴られたん?」

「はぁ、女心がわかってへんなぁ」



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