あれから俺は意味のわからないモヤモヤを胸に抱えて学校生活を送っていた。時々学校内で見かけるアイツはいつも千歳と一緒におって、それが物凄くムカつく。この前だって偶然アイツの教室の前を通ったら女子たちが俺の話をしていて、その時話を振られたアイツが「一氏に興味ないし」とか言うてた。何でアイツに一氏とか言われなあかんねん。何なんアイツほんまに。
「ユウジ…?」
「……え、」
それに比べて愛しい愛しい俺の彼女は俺の名前を呼んでくれる。
「どないしたん?ずっと千歳クンと苗字さんのこと見て」
「あ、いや、何でもあらへん」
本来、俺は今可愛い彼女であるミサとイチャイチャして幸せなはずやのに、視界に映るあの二人が気になって気になって気になって気になって、死ぬほど気になってしゃーない。アイツら何の話してんねんとか千歳名前にベタベタ触りすぎやろとかやっぱアイツ貧乳やなとか。
「あのね、ユウジ」
「ん?」
「私テニス部のマネージャーやろうと思うんやけど」
「何で?」
「近くでユウジのこと支えたいなって。もちろん部員みんなのことも」
うわーほんま優しすぎるマイハニー。涙出そう。どこぞの貧乳にはない優しさに感激して俺はミサの手を握る。
「ミサなら出来るで!それに今マネおらんから助かるわ!」
「ほんま?そやったら私頑張る!」
「話なら俺から白石にしとくわ」
「ありがとうユウジ!」
「ねぇ、そこ邪魔なんだけど」
俺とミサの間に入り込んできたんは無表情の名前。俺たちが邪魔で教室から出れなかったらしい。酷くイライラしてるのがわかった。
「ごめんね苗字さん」
「…………」
ミサの言葉を軽く無視してアイツは通りすぎていく。擦れ違い際にアイツから微かに普段から千歳が使ってる香水の匂いがした。その匂いがまるでアイツは千歳のものだと言っているようで俺の中の黒くモヤモヤとした何かが更に大きくなるのを感じた。
「…………」
「えらい不機嫌ですね先輩」
結局部活が終わるまで不機嫌だった俺に財前は「どこぞの誰かさんみたいや」と言ってきた。あえて名前を出さんのは嫌味なのか、悪気がないのか。いや前者や。コイツは嫌味しか発しない男や。先輩の俺にすら「きしょいっすわー」とか「うざい」とか言ってきよるんやから。あー誰やこんな後輩うちの部に入れたの。あ、俺らか。
「ユウジどうしたと?そげんムッとした顔しとう。名前みたいになっとるばい」
「…………」
俺のイライラの原因の一つである千歳は全く悪気はないんやと思う。だからってコイツは空気を読むことを知らんのか。
「なぁ、何で名前と付き合うたん?」
「好きやからに決まっと」
「は?アイツのどこを好きになったん?」
「名前は優しい子たい。それにむぞらしか」
「千歳、眼科行け。アイツのどこが可愛いん?なぁアイツのどこがええのや?なぁ誰か教えて出来れば簡潔に」
あんな貧乳の性悪女の何を好きや言うてんねん。千歳絶対おかしい。今俺千歳のことむっちゃ心配しとるし。けどやっぱムカつく。
「なぁいつ別れるん?もー早く別れろやー」
俺がそう言うと千歳はいつもと変わらない笑顔を見せてから、ロッカーに向き直って着替え始める。
「ユウジは何でそげん名前と俺が別れてほしいと?」
「………」
何で?理由なんて知らん。ただ気に食わんのや。名前が誰かのものなんておかしい。ずっと俺の隣におったアイツが俺やない誰かの隣におるとか、なんかイライラする。ただそれだけや。
「それって名前のことが好きやからじゃなか?」
「はあ!?んなわけあるかボケェ!」
何で俺が名前を好きになんねん。あんな我が儘で感じの悪い貧乳なんて願い下げや。吐きそう。あかん吐きそう。千歳は何を思ってそないこと言うたんやろ。わからん。俺がイライラしてる理由も千歳がこない悲しそうな顔しとる理由も。わからん。