「最悪!何なの、もう!」
今日はついてない。いつもはユウジと一緒に帰るけど、今日はムカついたからさっさと一人で帰ってきた。そして家の前まで来たと言うのに、玄関が開かない。お母さんがいない。鍵がない。あら大変。とりあえずお母さんに電話しようとして携帯を開いたら「急に仕事入ったから行ってくる」ってメールが入ってた。文末には「遅くなるからユウジくんの家にでも泊まれば」って。ちょっと泣きそうになった。今ユウジの家は行きたくない。どうしよ。誰か…
「だからって何で俺の家に来るんすか?」
「君の家が私の家に近いからに決まってんじゃん。アンタ馬鹿でしょ」
「はい、さようなら」
「ちょ、嘘だよ馬鹿とか言ってごめん財前。お願い今日泊めて」
「え、嫌っすわ」
財前光という男はこんないたいけな少女を野放しにするらしい。ドライアイス並みに冷たい男だ。
「いたいけな少女やと思うんなら、その物騒なもんしまってくださいよ」
「使わなきゃただのおもちゃよ」
ただの金属バットだ。
「ほな、そのバットについてる赤いのはなんですか絶対血痕やん怖い怖い怖い」
「いや赤いペンキだよ血じゃないから。とりあえずこれで頭かち割られたくなかったら家に入れて」
「その前に殴ってええですか?これって正当防衛ですよね?」
「女の子殴るとか信じられない。ドメスティックバイオテクノロジーだよ」
「何や言うてることおかしすぎますわ。何やねんバイオテクノロジーて。バイオレンスや」
「的確なツッコミありがとう。まあ立ち話も難なんでとりあえず中に入れて」
「アンタのセリフちゃうやろ。……まあどうぞ。まだ死にたないんで」
「お邪魔ー」
「部屋汚いっすけど勘弁してください」
「ほんまや汚っ」
「帰れ」
嘘嘘!大丈夫、私の部屋も同じくらい汚いから。それフォローになってませんわ。とかいうやりとりをしながら財前の部屋にイン。
「先輩、来て早々ベッドの下覗くのやめてもらえますか?エロ本とかないっすから」
「つまんねー」
「大人しくユウジ先輩の家行ったらどうですか?」
「はぁ?やだし絶対やだ」
「失恋したからですか?」
「アンタさデリカシーって言葉知ってる?」
「知ってはりますよそんくらい」
「ならデリカシーがないなお前は」
「どうも」
「褒めてねーし」
財前は表情を変えずにベッドの上にどかりと座る。失恋とか言うな。私はムスッとしながら膝を抱えて座る。
「何でしたっけ、ユウジ先輩の彼女」
「蕪城さん」
「あーそうそう。可愛いんすか?」
「別に。私の方が可愛い」
「………」
えっ、無視?無視すんなよ。おいピアス野郎。ねえ財前くーん。携帯いじらないでよ。だってホントだもん私の方が絶対可愛いよ絶対!
「ただちょっと乳でかいからってさー」
「でかいんすか?」
「でかい」
「へー」
「まじユウジムカつく」
「ほな先輩も彼氏作ったらええんちゃいます?」
「彼氏?」
んー、彼氏ねえ。それもいいかも。だってユウジ蕪城さん蕪城さんって、全然私を見てくれないし。私も彼氏作ろうかなー。
「財前、私と付き合ってよ」
「は?俺がっすか?」
「アンタ以外に誰がいるのよ」
「えー嫌っすわ。先輩、顔は良くても短気だし」
「何よ短気って」
「ほらすぐムッとする。先輩と日常茶飯事おるユウジ先輩ほんまにすごいっすわ」
「ユウジも短気だからじゃないの?」
実際アイツすぐに機嫌悪くなるし。あ、私もだけど。
「ねえ私と付き合うたらこんな可愛い彼女が出きるんだよ?嬉しいことやろ?」
「自覚あるところが怖いっすわ。まあほんまのことやから否定はできへんけど…言うても先輩って顔だけの女やないですか。あ、あと胸もない」
「うわ傷ついた。私傷ついたよ今。男なんて最低。そんなに乳が好きか、くっそまじうざい」
「ないよりある方がええに決まってるやないですか」
「ねえ泣いていい?」
「あ、何かすんません他を当たってください」
「謝られると余計に傷つく…」
何で私、財前なんかにフラれてんの?散々言われて振られるって何よ。
「あーもう、ムカつく!ねえお腹すいたご飯は?」
「何で俺キレられてるんすかね?」
「知らんわ!早くご飯作ってよ!」
「…はあ、この人といつもおるユウジ先輩ほんまにすごいっすわ」