「どうして私がこんなことをやらなきゃいけないんですかね?何が華の女子高生だ花宮先輩の支配下にある今、華もクソもないですよむしろハナクソですよ。あー私の高校生活が…」

「おい、口動かしてないで手を動かせ」

「やってますよ!!!」


はあもうヤダ帰りたい神様たすけて…とか云々ぬかしてるバカな女を視界の隅にやりながらシュートを放つ。ボールは綺麗な弧を描いてゴールに入った。


「文句いいながらもちゃんとやってるよね」

「誰がだよ」

「苗字ちゃん」


原が歩み寄ってきて苗字を指差す。苗字はバカだから使い物にならないと思ってたけど仕事を覚えるのは早くてそこそこ使えた。バカだけど。



「あれ、超がつくほどお人好しだよね。あぁ言うタイプの子って利用されやすそう」

「現に利用されてっからここに居るんだろーが」

「でもさ、誰でもよかったわけじゃないよね?」

「何が言いたいんだよ」

「入学式の日、花宮ずっとあの子のこと見てた」


あ、もしかして一目惚れしちゃったとかー?とふざけたことを吐かしてる原を睨む。「おー怖っ」と言って噛んでいたガムを割った。


「ちげーよ、んなワケねえだろ」

「じゃあ何で?」

「バカそうな女だと思って見てたんだよ。おら、休憩にすんぞ」


そこで話を強制終了させた。納得いってない様子の原を無視して他の部員が集まる場所へ向かう。


「ザキ先輩!汗ふいてあげます!」

「や、自分でやるから…」

「そんな遠慮しないでください!」

「ザキ懐かれてね?餌付けでもしたの?」

「してねーよ!」


何してんのアイツ。なんか見ててウザかったから苗字の襟を後ろから掴むと「ぐえっ」と色気のない声が出た。キモい。


「…なにするんですか、花宮先輩」

「ザキなんていいからさっさとオレのドリンク寄越せ」

「ザキなんてってなんですか!ザキ先輩は優しくて菩薩のようなお方なんです!意地悪な花宮先輩よりよっぽど素敵な人です!」

「あ?てめーのその生意気な口縫い付けてやろうか」

「やれるもんならどーぞ!別にそんな脅し怖くないです!」

「ビビってんだろ。怖くないならザキの後ろに隠れてんじゃねーよ」

「ふたりともやめてあげて。間に挟まれたザキが可哀想」


目の前のザキが真っ青な顔をしていて、その後ろの女と言えば「べー」なんて舌を出してるからウザすぎてその舌切り落としてやろうかと思った。



「おっつ〜!また明日ねんっ」

「原センパイお疲れ様です!」

「お疲れ〜」

「あああ、ザキ先輩!お帰りですか!家まで送っていきます!危ないので!」

「いらねーわ!」

「え〜、じゃあ一緒に帰りましょう!」


終始苗字と喧嘩していたらあっという間に練習が終わり苛立ちだけが残った。次々と帰っていく部員たちに続いてザキが部室を出ようとすると苗字が慌てて鞄を持って追いかけようとする。それを俺が制服の襟を掴んで阻止する。


「おい、待てブス」

「私ブスじゃないんで離してください」

「それは勘違いだ鏡見てこい」

「私ザキ先輩と帰るんです離してください!」

「てめーはまだ仕事残ってんだよ」

「なんの仕事ですか!もう体育館の掃除も終わってます!」

「練習試合の日程組むんだよ。いいから残れ」

「………」


心底嫌そうに顔を歪めながら苗字は渋々手に持った鞄をおいた。椅子に腰掛けて不貞腐れた顔で俺をじーっとみる。


「もしかして花宮先輩とふたりでやるんですか?」

「文句あんのか」

「拷問だ…」

「あ?なんか言ったか?」

「はっはー!嬉しいなぁ!!!」


ウザい。




「あとはその学校の顧問に連絡しとけ。日程は向こうの学校と確認しろ、いいな」

「はーい」

「腑抜けた返事してんじゃねーよ。ちゃんと理解したのか」

「メモとってあるから大丈夫です!」


そろそろ下校時刻になり、切りのいいところでお互い帰りの支度を始めた。部室の鍵を閉めて職員室に鍵を返してから校門までいく。その間、苗字は俺の一歩後ろを歩いていた。


「おっ、花宮じゃーな!」

「花宮君バイバーイ」

「あぁ、また明日!」


途中、すれ違う生徒たちにテキトーに笑顔貼り付けて手を振る。


「………」

「なに見てんだよ」


ふと視線を感じ横を見ればじーっと何か言いたそうに俺を見ている苗字と目が合う。


「いや、私もこの笑顔に最初だまされたんだな…と思うと悲しくなっただけです」

「騙されるお前らが悪いんだろ」

「疲れないんですか?そうやって自分を偽って振る舞うのは」

「別に。いい顔しとけば周りは勝手に俺をいい奴だって勘違いしてくれるからな。利用できる人間は多いほうがいいだろ。俺は利口に生きてんだよ」

「だったら、どうして花宮先輩は私に本性を見せたんですか?」

「あ?」

「そのまま猫かぶって私に優しくしとけば私は騙されたままマネージャーも快く引き受けたと思います。でも、花宮はそれをしなかった」


どうしてですか?と大きな目が俺を捉える。今まで汚いものなんて見て来なかったとでも言うような純粋な目が俺を映していた。その目だ、俺が嫌なのは。汚してやりてぇと思うのは。俺を汚くさせるのは、汚い感情なんて知らない綺麗なお前だ。どんどん汚れていって、はやく俺のところまで堕ちてこい。


「知るかよ、自分で考えろ」

「……ケチ」


校門に差し掛かったところで未だにムスッときてる苗字を振り返る。


「すっかり暗くなったな。お前の家どっち?」

「え?いや…送ってくれなくても大丈夫ですよ。ひとりで帰れるんで」

「なに勘違いしてんだ、バァーカ」

「はい?」

「お前と反対の道から帰るから聞いたんだよ」

「私、花宮先輩みたいな性格悪い人初めて見ました」


そりゃ、どーも。


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