「おー、告白の覗きとはいい趣味持ってんなお前」

「ああああ、笠松せんぱーい!ちょ、静かにしてくださいッス!てか告白なんかじゃないッス!」

「お前のがうるせーよ」


放課後、中庭が見える校舎の影に隠れてコソコソしていたら笠松先輩に背中を蹴られて前のめりになって危うくオレの存在がバレるところだった。確かにとんでもない趣味がお有りのように見えるが、先に言っておく。これは正当な覗きであって断じてやましい気持ちなどない。


「正当な覗きってなんだよ…」

「や、そもそも覗きじゃないッス!見守ってるんスよ!」

「ストーカーはそうやって言い訳をするんだぞ」

「とにかく先輩もそんなとこ突っ立ってないでこっちで隠れてくださいよぉ!」

「なんで俺まで…つーか苗字あそこでなにやってんだよ」

「なにって…打倒田中ッスよ」

「はぁ???」


そう、オレが覗…見守ってるのは先ほどから中庭にいる名前っちだ。名前っちは田中くんとちゃんと話をしてくると言って田中くんを中庭に呼び出した。本来なら部活が休みのオレは今頃寄り道をしながら帰宅しているところだけど、名前っちのことが気になりすぎて帰るに帰れない。田中くんと話をするということは、田中くんはおそらく自分の気持ちを名前っちに伝えるだろう。そこまでは想像できる。でもそれに名前っちがどう答えるかなんてわからない。もしかしたら名前っちが取られちゃうかもしれない、そう思ったら呑気に帰ることなんてできなかった。


「悪い、待たせた…?」

「ううん、大丈夫」


田中ログイン。なんかカップルの待ち合わせみたいでちょっとムカつく。オレなら名前っちのこと待たせたりしないのに!


「で、話って…」

「うん、今日急にいなくなったりしてごめんね」

「…いや、俺こそあんなところで言うことじゃなかった。ごめん」


気まずい雰囲気がふたりを包んでいる。もうなんで見てるオレがこんなに緊張しなきゃいけないんだろう。


「あのね、わたしあの時のこと田中くんのせいだって一度も思ったことないよ」

「…でも俺があの時あんなことしなかったら苗字はいじめられることもなかっただろ」

「ううん、あかねちゃんずっと我慢してたんだよ。わたしと友達になったこと。ずっと後悔してた。どの道同じことになってたよ。だからいいきっかけだったのかもしれない」


だからもうこの話はここで終わりにしよう?名前っちのその言葉に腑に落ちない様子の田中くんは渋々納得したように「ごめん」と言った。


「俺さ、こんなこと言う資格もうないかもしれないけど、やっぱりまだ苗字が好きなんだ」

「…うん」

「だから俺と付き合うこと、考えてほしい…」


とうとう言われてしまった。名前っちはなんて答えるんだろう。言われた本人でもないオレが変にドキドキしているのはこれまたおかしな話だ。だけど名前っちはすぐに答えを出した。


「あの時…中学のとき、すぐに返事してあげられなくてごめんね?」

「え、」

「せっかく告白してくれたのにわたし、あかねちゃん追いかけて行っちゃったから。あれから田中くんのこと避けたりしたし、酷いことしたよね」

「いや、苗字は悪くないから謝らなくていいよ」

「うん、ありがとう。でも、ごめんね。田中くんとは付き合えない」


最低だけど、オレはその言葉を聞いてどこかで安心していた。人が振られているのに安心しているなんてオレ相当嫌なやつだ。


「それに田中くんが好きなのは中学のわたしだよ。今のわたしじゃない」

「何いってんだよ、俺は今でも…!」

「じゃあ、こんな地味なわたしと隣歩ける?こんなわたしと街にデートに行ける?嫌でしょ?だから田中くんは前のわたしに戻ってほしかったんじゃないの?」

「それは…」

「ごめんね、意地悪なこと言って。でもわたし今の自分気に入ってるから。こんなダサいわたしでも仲良くしてくれて隣歩いてくれる人がいるの」

「それって黄瀬のこと…?」


自分の名前が出たことに思わずハッとする。名前っちを見るとハッキリと「うん」と頷き笑った。やばいニヤける。なんかこんな小さなことでも嬉しい。ていうか名前っち自分のことダサい、とか言って悲しくなんないのかな。まずダサいという自覚があったことに驚く。


「変わったね、苗字」

「ん?」

「今まで苗字が笑ったところなんて見たことなかったし、こんなに話したのもきっと初めてだよな」

「それ高尾くんにもこの前言われた」

「高尾に会ったの?」

「うん、たまたまね」

「そっか、」


そこで会話は止まってしまい、ぎこちない空気が流れている。もうなんスか用が済んだならはやくバイバイすればいいのに!はやくオレと帰ろうよ、名前っち!


「あ、あのさ…」

「ん?」

「苗字が迷惑じゃなかったら…友達、になってほしい」

「…!」

「今すぐお前のこと諦めるのは無理だと思うけど、普通に友達として仲良くしたい」

「うん!わたしも、田中くんが友達になってくれたら嬉しいな」

「!そ、そっか!じゃあ、これからは友達としてよろしく」

「ふふ、よろしく」


そう言って田中くんに笑顔を向ける名前っちにどうしようもなくムカついてしまった。なんだこれ。名前っちの周りがたくさんの友達でいっぱいになればいいと、最初に願ったのはオレのはずなのに。そもそもオレは中学の頃の名前っちを知らないけど田中くんは知ってるわけでしょ?それもなんかムカつく!あんな地味な子っスよ!?どこが好きだったの!?ねえ!!あれ、でも待って。名前っち本人がダサいと自覚してるってことはちゃんとしたセンスの持ち主なんじゃないか?それに今と昔は違うって言ってた。田中くんが好きなるくらいだし昔の名前っちってまさか可愛かったんじゃ…


「や、ないないない」←失礼

「なに一人でブツブツ言ってんだよ」

「だってあれっスよ!まるおくん女版みたいな名前っちが可愛いなんて想像できない!地味の代名詞っスもん!」

「お前それ悪口な」


校舎の影で笠松先輩とわちゃわちゃしていたら、いつの間にか話は終わってたみたいでそこに二人の姿がなかった。あれ?どこ行っちゃったの?オレが悶々と謎なことを想像していたらいなくなってしまった。


「もう!笠松先輩がぼーっとしてるから!」

「何で俺のせいなんだよ、シバくぞ!」

「いてーっ!」


ドカッ、と笠松先輩に蹴られて大声を出したら後ろから「黄瀬くん?」と聞き慣れた声が。


「わ!?名前っち!!!」

「こんなところでどうしたの?」


振り返ると名前っちが驚いたようにオレをじっと見ている。そのぐるぐるメガネからは何も感じ取ることができないし、黒髪の三つ編みはいつも通り地味!可愛い…わけがない。いくら考えたところで可愛いとは無縁だったからそこでオレの考えを放棄することにした。


「名前っちこそ、なんでここに」

「田中くんとちゃんと話して、戻ろうとしたら黄瀬くんの声がしたから」


あ、笠松先輩もこんにちは。とオレの隣にいた笠松先輩にも律儀に挨拶をする。どうやらオレたちが覗いてたことはバレてないみたいでほっとする。すると名前っちは笑顔でこう言った。


「でも丁度よかった。どうしても黄瀬くんに会いたかったから」

「え…?」

「だって黄瀬くん言ったでしょ?『ちゃんとオレのとこに帰ってきてね』って」

「あ、うん…言った」

「だから、帰ってきたよ?」



前言撤回。なにこの子可愛い!!!
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