ピッ。

自動販売機に小銭を入れてファンタのボタンを押そうとした瞬間、何者かの腕が伸びてきて他のボタンを押すとガゴンッとコーラが落ちてきた。それを私じゃない手が拾う。あれ。デジャヴ。


「………」


このやろ。隣にいるボタンを押した犯人を睨むと悪びれもなく意地悪く口角を釣り上げた。殴りたい。


「灰崎…表出ろこら」

「んなことで怒んじゃねぇよ」

「私の全財産を貴様よくも」


この何でもドロボー男こと灰崎は私の財布を覗いて中身を確認したあと小馬鹿にしたように笑った。ムカつく。


「そういえば、お前さぁ」

「ん?」

「赤司と付き合ったんだって?」

「え、あ…うん」


なんとなく聞かれた質問に返す。そりゃあ知ってるか。私と赤司が付き合った途端に学校中に広まったんだから。しかも、ありとあらゆるところで「やっと付き合ったか」なんて呆れたように言われたから一体なんのことだかよくわからない。


「にしてもお前趣味悪ぃよな」

「え、」

「あいつのどこがいいんだよ」


あいつ何考えてるかわかんねぇじゃん、とボソリと呟く。確かに周りからみたら何を考えてるのかわからないような表情をしてる。それで中島が昔赤司のことが嫌いだったと言っていたっけ。でも違う。


「赤司ってあぁ見えてわかりやすいよ?特に機嫌が悪いときは」

「いつも機嫌悪そうだろ」

「あんたもね」

「…るせーよ」


そう言って灰崎は私の金で買ったコーラをがぶ飲みして残り少なくなったペットボトルを私に投げた。いらねー。これのせいで以前、赤司に顔面に除菌スプレーかけられたことを思い出した。


「まあ、いいわ。お前らのノロケ話なんか聞きたくねぇし」

「フッ…羨ましいのかぃ?リア充が…!」

「うぜぇ…」


眉間にシワを寄せた灰崎は私の顔をじっと見てから「あ、そうだ」と何か思いついたように言った。


「赤司からお前奪ったらどうなるだろうな?」

「は?なにいってんの?」

「見てぇだろ?俺もあいつにムカついてたとこだし、試しに俺の女になれば?」


ぐっと私と距離を縮めてきた灰崎は意地悪く不適な笑みを見せる。確かに灰崎は赤司に退部命令を言い渡されていい気はしていないはず。


「私が素直にうんって言うと思う?」

「言わねーよな、お前赤司大好きだし」

「だったら、」

「無理やり奪うに決まってんだろ」

「わ…!」


灰崎が私の肩を強く押す。自販機の陰に押し込まれた私は灰崎によって完全に逃げ場を失った。オーマイガー。


「ちょっと退けてよ」

「なんでお前そんなリアクション薄いわけ?」

「え、十分驚いてるけど」

「もう少し可愛い抵抗とかできねーの?」

「そんなこと言われても…」


きゃっ、やめてよぉ…!とか女の子らしく言ったらいいのか?言ったところで状況は変わらないだろうけど。むしろ灰崎を余計にイラつかせてしまう可能性がある。とにかく困ったなぁ。こんなところを赤司に見られたら何を言われるかわかったもんじゃないのに。まさか灰崎に壁ドンをされるとは。赤司の猟奇的な壁ドンよりはマシだけど。でも人通りが少ないからってこんなとこでやめてほしいよ公開処刑かよ。わりと本気で灰崎の手を振り払ってみようと試みたが、やはり力では敵わなかった。さて、どうするか…と悩んでいるうちに灰崎は私と距離を詰める。


「ま、なんでもいいけどよ…」

「うぐっ!?」


灰崎は私の顎を持ち上げるように上を向かせると、さらに顔を近づけてきた。って、おい…あれは。


「は、灰崎…!!」

「うるせーな今更慌ててんじゃねえよ。少し大人しくしてろ」

「違うバカ!うしろ!灰崎うしろ!」

「あァ……?」


灰崎が振り返ったのが先か、それともヤツが灰崎のネクタイを掴んだのが先か。もうよくわからないが灰崎越しに見えた赤い髪の男が相当怒っていることだけはわかった。


「チッ…赤司、」


灰崎は舌打ちをすると視線の先の赤司を鋭く睨んだ。対して赤司は無表情で灰崎のネクタイを強く(首が締まる勢いで)引いた。


「悪いが自分のものに手を出されて黙ってるほど僕も大人じゃないんだ」


冷たい目をした赤司がそう言うと、ちらっと私のほうを見てから「おいで」と自分の後ろに隠すように私を呼んだ。


「お前は僕を怒らせるのが好きだね名前」

「今回、私は悪くない」


私はただ自販機にジュース買いにきただけなのに、なぜこんなことに…。赤司の後ろから顔をだして灰崎に向かって「お前のせいだぞ」と念を送れば「めんどくせぇ」と言って赤司の手を払った。めんどくせぇ、ってこんな状況にしたのはお前だろ。


「ただの暇つぶしだろ。うっぜーな。なんか萎えたわ」


そう言って灰崎は自販機の横のゴミ箱を蹴って行ってしまった。おい、八つ当たりすんな!


「とんだお騒がせ野郎だね」

「隙も何もあったもんじゃないな」

「ほんとだよ、まったく」

「名前のことだよ」


隣の赤司を見るとやっぱり少し怒ってる。だけどちょっとだけ困ったように笑う赤司は私の腕を引いて自分の腕の中に収めた。ぎゅうっと赤司の力が強まる。ちょっと痛い。


「赤司…?」

「何もされなかった?」

「うん。強いて言えば私のジュース代を取られたことかな」

「ならいい。ジュースなんて好きなだけ買ってやる」

「アンタ最近私に甘いよね」

「厳しいのがお好みかな?」

「やめて死ぬ」

「この際、変な男に絡まれないように首輪でも繋げておこうか?それとも僕の部屋に監禁してもいいんだよ?」

「真顔で言うなよ怖いわ」


ヤンデレルートは勘弁して。思わず苦笑い。「冗談だよ」って赤司が笑う。当たり前だ本気だったら二度と近寄らねーよ。


「でも名前を独り占めしたいのは本当」


そう言って赤司は私の唇にちゅ、と軽く口付けた。


「…そういうの、ズルい」

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