「・・・ミラ、」
やがて静かになったその場に立っていたのは魔王だった。綺麗な顔は赤に染まっている。魔王は微笑み、僕に手を伸ばしたが、突然その動きを止めた。そして表情を消すと、自らの足元を見る。
「・・・そいつに、触らせるものか」
瀕死である筈の剣士が魔王の足を掴み、その歩みを阻んでいた。その声を皮切りにするように、仲間たちが立ち上がる。立つことすら難しいであろう仲間たちはそれでも武器を構え、魔王を憎悪のこもった目で睨み据えた。魔王はそれをゴミでも見るような目で見つめている。そして、魔法を唱えようとしたのだろう、真っ赤な唇を開く。
「・・もう、やめてください・・・っ」
僕は泣いていた。泣きながら、敵である筈の魔王に縋り付いていた。
「もうみんな戦う力など残っていません・・・あなたの勝ちです。・・・僕が、僕が何でもします。だから・・・だから、どうか仲間の命だけは助けてください・・・っ」
お願いします、お願いしますと敵に何度も繰り返し慈悲を乞う僕はさぞやみじめだっただろう。やはり僕は、勇者のメンバーの一員になれるような人間じゃなかったんだ。
僕はひらすら慈悲を乞うた。旅の間中、僕はずっと勇者たちを怖がっていた。暴言をかけられる度に悲しい気持ちになった。けれど彼らは、僕に対して決して暴力は奮わず、それどころか戦闘中は常に僕のことをかばっていてくれた。今日だってそうだ。
僕の言葉を静かに聞いていた魔王は、複雑な色を目に浮かべ舌打ちをすると、小さな声で「分かった」と呟いた。そうして、塵を振り払うように手を振るう。すると部屋から、僕以外の仲間は跡形もなく消え去り、城も何事もなかったかのように元通りになっていた。
「・・・そんな顔をするな。ここから一番遠い街に飛ばしただけだ」
涙を零す僕をあやすように、魔王は僕の顔中に口づけを落とす。さっきまでの姿がまるで嘘だったかのような、優しい仕草だった。
「本当、ですか・・・?」
「私は愛しいお前に嘘をついたりはしない」
僕の頬を撫でながらきっぱりと言い切った魔王を、僕は信じることにした。いや、信じる他になかった。
それから僕は、魔王と一緒に暮らしている。魔王の膝に向かいあうように乗せられた僕は、先程からしつこく口づけをされていた。口の中をかき回す舌は冷たい。唾液を何度も流し込まれ、必死に飲み込む。余りの激しい口づけに、僕が息も絶え絶えになり走馬灯が見え始めた頃、漸く魔王は僕から口を離し、濡れた赤い唇を舌で舐め上げた。
「・・・なんだ。キスだけで勃ったのか、私の可愛いミラ」
「・・・っや!・・・触らないでっ・・」
自分で触ることすら希のそこを他人の手で触られ、僕はぞくぞくと背中に走る快感と恐怖に涙を零す。魔王はそんな僕を愛おしむような目で見て、それからゆっくりと僕自身を擦り始めた。
「いやあっ!・・・ぁっ・・・だめえっ!」
「ミラ・・・可愛い・・・私の、私だけのミラ・・・」
「出ちゃう・・・っ!離してっ、・・・ぅうっ」
必死で抵抗しても、魔王はびくともしない。お腹の奥からせり上がってくるそれに、僕はいやいやと必死に首を振った。
「ミラ・・・出していい。ほら、気持ちいいだろう?」
「あっ・・・いやっ・・・っ!いやああああっ・・!」
宥めるように顔中に口づけを落とされ、自身を擦り上げられる。ぎりっと先端に立てられた爪に、びくっと体が揺れて、頭の中が真っ白になった。
まるで全力疾走をした後のような倦怠感に、はあはあと息を必死に整えていると、魔王は僕から出た白い液体で濡れた手をべろりと舐め上げ、うっとりと笑った。
「愛しているよ、ミラ。・・・永遠に一緒にいよう」
それから永遠にも近いほどの時間が流れた。
魔王は本当に、僕に一度だって嘘をつかなかった。
おしまい