僕は、はあとため息をはいた。僕がメンバーを外れたいのだと皆に打ち明けてから、もう何ヶ月が経っただろう。僕はみんなに相当嫌われているらしく、やめたいと何度切り出しても誰もきちんと聞いてはくれない。もしかしたら、旅の途中で目障りな僕を消そうとでも考えているのかもしれない。じわり、と目に涙が浮かんだ。

 鬱々とした思いを抱えたまま旅を続けているうちに、いつの間にか僕たちは呪われた森を抜けて、魔王の城へとたどり着いていた。おかしなことに、城を囲む森の中でモンスターたちとは一度も遭遇していない。静まり返った森と、聳え立つ城。その余りの不気味さに、何度母や弟のいる村に帰りたいと願ったかはわからない。

 「・・・おかしいですね。こんなにあっさりと魔王の城へたどり着けるなんて」

 黒魔法使いが眉間に皺を寄せて考え込む様子に、僕は心の中で何度も頷いた。一度、引き返そうよ。その言葉が溢れ出しそうになるのを必死に堪える。

 そんな黒魔法使いを見て、剣士は鼻で笑うと、からかうような嘲るような視線で仲間を見た。

「びびってんのかよ、お前」
「なっ!誰がびびってなんか・・・っ!ただ、嫌な予感がしただけですっ」
「喧嘩するなよ、二人共!きっとモンスター達は俺たちの強さに怖がって隠れてるだけだって!なっ?」

 今にも殺し合いだしそうなぴりぴりとした空気に、勇者は輝くばかりの笑顔で仲裁に入ると、今にも逃げ出しそうになっている僕の手を掴んだ。

「心配しなくても大丈夫だ!俺が守ってやるからなっ」

 僕は勇者のその言葉に、曖昧に笑うことしかできなかった。どんよりと、胸を覆う真っ黒な雲が分厚くなっていく。暗に足手まといだと言われているのだろう。守る、と言われてしまう自分が不甲斐ない。いっそ置いていって貰った方が何倍もマシだ。

 俺のことは置いていって欲しい。そう口を開こうと思った時、突然物凄い音をたてて閉まっていた門が開いた。僕は勇者に手を繋がれたまま、驚きに体をびくりと震わせる。

「・・・どうやら、歓迎してくれてるみたいだねえ」
「ああ、そうみたいだな」
「行こう、みんな!魔王を倒して世界を平和にするんだっ」

 みんなは開いた門を見据えると、決意を秘めた目で歩き出す。僕はどうにか足を踏ん張ろうと試みるが、抵抗虚しく、勇者にずりずりと引きずられてしまう。僕は故郷にいる家族のことを思った。今頃、とても心配をしているだろう。親不孝者で本当にごめんなさい、お母さん。

 城に入ってすぐ大量のモンスターに襲われるんじゃないかとまがまえていた僕だったが、それはあっさりと裏切られ、白はまるでもぬけの殻のように静まり返っていた。

 敵が何処にも見当たらない。まるで僕たちがこの城に入る前に、誰かに消されてしまったかのように。モンスターたちがいたという痕跡も見当たらなかった。

 顔を青ざめ怯える僕とは違って、皆は城の様子を怪しみながらも前に進む足を止めない。


 そして、

「・・・漸く来たか。待ちくたびれたぞ」

 城の最上階。豪華な扉の向こうに、それはいた。闇を思わせるような漆黒の髪に、血のように赤い瞳。白い肌はまるで陶器のように滑らかで、その薄い唇から零れる声は低く、甘い。僕は彼が魔王だと知っていながらも、思わず見惚れてしまう。それ程までに魔王は、この世のものとは思えない美しさと底知れない何かを持っていた。




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