01"

本当は俺を見つめてくるその視線の意味に気づいていた。熱っぽく、それでいて苦しさを内包したその目の真っ直ぐさと言ったら。思わず俺が怯えて、目を反らし、背を向けてしまいたくなる程、恐ろしいものだった。

だから、告白された時、ああついに来てしまったと思った。俺は彼が好きだった。幼馴染であり、親友である彼が好きだったのだ。それは同じ好きでも、彼とは全くベクトルの違うもので決して交わることがないものだった。

俺は恐れていたのだ。この素晴らしい二人の関係が壊れてしまうことを。彼は俺にとって空気であり、水であり、なくてはならないものだった。だから、あの日、ずっと恐れていた日が来てしまった時、俺は思わず目を、耳を塞いでしまいたかった程に怯えていたんだ。

彼が俺と向かい合って、あの目で見てくることが耐えられなかった。だから、
俺は逃げたのだ。最低な言葉で、彼を親友という立場に無理やり縛り付けようとした。俺は彼を15年間、ずっと見てきたんだ。どうすれば、彼が俺が好きな彼のままでいてくれるかなんて手に取るようにわかった。

最低なのは俺なんだ。
謝るべきは、紛れもなく俺だったのだ。

俺は知っていた。彼が傷ついていることを。それなのに、彼の名前を呼ぶたびに答えてくれる存在がいることに安心していた。離れていかない彼を見て、安心していたんだ。

俺は馬鹿だ。
最低の大馬鹿野郎だ。

何故、なかったことにしようなどと思ったんだろう。何故、耳を目を塞いでしまったんだろう。何より大切な彼に背を向けたのだろう。

泣いた彼の、傷つききった目が忘れられないんだ。

『傷つけてごめん』
違う。傷つけたのは俺なんだ。
『最低な奴でごめん』
違う。最低なのは俺なんだ。

俺は逃げた。そして、俺の空気であり、水である彼を失った。


俺は、彼の行方を知らない。知る術を持たないからだ。彼の家族は固く口を閉じ、彼の行方は誰も知れない。

あんなに近くにいたはずの彼が、今はもう見えないほどの距離にいる。

ここにきて俺は漸く、彼の思いを、悲しみを苦しみを痛みを知ることができたんだ。

俺は間違っていた。なかったことになど、決してしてはいけなかったんだ。彼が好きならば尚更。だってそれは、彼の傷にぐりぐりと塩を塗りこむ行為に近いものだったのだから。

俺は臆病者で卑怯者で最低で偽善者だった。

たとえ今から必死に走ったとしても、俺は彼に追いつけないだろう。けれどこれが俺が逃げ続けてきた結果なのだ。

だから俺は追いかける。息が切れて、肺が潰れて、足がもげても、俺は彼を追いかけなければいけない。

そうして追いついたら、追いつくことができたなら。今度は俺が彼を抱きしめるんだ。

おかえりと言って、俺は泣いてしまうかもしれないけれど、できるなら笑顔で。きっと彼も泣いて、それからただいまって言ってくれるはずだから。




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