いらない
最近、実(みのる)の様子がおかしい。元気も食欲もないし、悲しそうな思い詰めたような顔でしょっちゅうため息を吐いている。

何かあったのかと聞いても弱々しく微笑むだけ。実がすごく苦しんでいるのが分かるのに、具体的に何に苦しめられているのかが分からない。事前に実の苦しみを防げなかった自分に舌を打つ。役立たずめ。実を守ってやれるのは俺だけなのに。

立ち止まっていても事態は好転したりしない。だから俺は行動に移すことにした。実を苦しめている正体を明かし、いつものように笑う実を取り戻すのだ。みのるには笑顔が一番似合っているから。

みのる、俺のみのる。待っててくれ。必ず俺が助けてやる。お前を苦しめるなにかを俺は絶対に許さないから。

それから俺は実を今まで以上に注意して見るようになった。そしてみのるを見続けている内に、ある事実に気づいた。


実がいつも同じ男を目で追っていることに。


その男を見る実の目がまるで恋する女のようだったのは、きっと俺の見間違いなんだ。そうに違いない。だって実には俺だけなんだから。俺と実は運命で繋がれている。他の人間が俺たちの間に入るだなんて許されない。

実はたぶらかされたんだ。それか卑怯な手を使って気を引いたんだろう。純粋で天使のような綺麗な心を持つ実。そんな実を惑わせるだなんて、腸が煮えくり返りそうだ。

その最低な男の名前は林 翔馬。サッカー部のキャプテンで、女子からの人気は凄まじいらしい。爽やか好青年だと持て囃されているが、みのるに手を出すなんて生きる価値もないカス野郎だ。恐らく少しばかり人気があるからと言って調子に乗ってしまったのだろう。

だから、きちんと俺が現実を教えてあげた。
身の程を弁えるということは大切だもんな?


「…ねえ、知ってる?三組の林くん、昨日通り魔に襲われたらしいよ」
「顔を包丁で切り刻まれたんでしょ?…足の腱も切られたらしくてサッカーどころか立つことも難しいって…」
「犯人、まだ見つかってないらしいね。今日の朝、たくさん警察見たし」

女子たちがひそひそ噂をしている。実は昨日よりも顔を顔面蒼白にし苦しそうな顔をしていた。

なんで?まだ実を苦しめているものがあるのか。

俺はひそひそとさっきから実の近くで噂話をしている女子二人を見る。ああ、なるほど。そういうことか。

そうだよな。あんなカス野郎の話を聞かされるなんて苦痛だよな。可哀想な実。大丈夫だよ。お前は俺が守るよ。すぐに噂なんか出来なくさせてあげるからね。

「小西、浅川ちょっと来てくれるか」
「え〜なあに、豊(ゆたか)先生?」

俺は近寄ってきた女子生徒二人ににっこりと微笑んでみせた。


実を苦しめる奴は、いらないもんな。




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テーマ「人外ファンタジー」
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