甘い。口の中に広がるクリームみたいにまろやかなそれ。たった一口で幸せになれるなんて。
スプーンまでくわえてしまうわ。



「あー!!ちぃ姉それ僕のプリン!」
夢心地で味わっていたというのに一瞬で現実に引き戻される。しかも想定していた中で一番最悪の現実に。
あまりのおいしさに目を閉じてしまったせいで好春が来たことに気付かなかった。もっとはやく気付けていたらごまかせただろうに、私の馬鹿。好春は少し怒っているみたいだ。



冷蔵庫の中に存在を主張するプリンさんがいらっしゃった。すっごく主張してくるからしょうがなく食べてしまった。なんて言い訳は100%通用しないだろう。私と好春しかいない家で私が買ったのではないプリンが冷蔵庫の中に入っていたのだ。そうなるとそのプリンが好春のものであることはわかりきっている。
だけどわたしはプリンを食べてしまった。どう言い訳しようか。最悪、買い直しに行くべきなんだろう。行きたくないけど。



「あ、好春のだったの」
とりあえず、とぼけてしまえと思った。少しわざとらしかったかもしれない。効果は望めないだろう。
「ひどいよちぃ姉!」
ほら、やっぱり。
「僕が後で食べようと思って取って置いたやつなのに勝手に食べちゃうなんて」
「好春の、なんて書いてなかったからいいのかなぁって」
「……ちーぃねえ?」
「うそうそ、ごめんなさい。好春のだって知ってて食べました」


形だけのわかりやすい態度を隠さずに頭を下げる。もっと怒らせるかもしれないと思ったのに、許してくれるのか好春はまったくもーとぶつくさ言うだけで、決して買い直してこいとは言わなかった。正直に言ったのがよかったのかな。
好春には悪いけど、おいしいもの食べれて私は満足だったから、助かった。今から買ってきてなんて言われてたら逆ギレしてた可能性もあったし。よかったよかった。

と最初から上げて落とすつもりだったみたいで。
「怒らないから、今日一日僕の言うこと聞いてよね、ちぃ姉」
うわぁ、面倒なことになったと思う。
「拒否権は、ないから」



ゆらしは、力、尽きました。
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