わたしは必死に走った。
走って走って、横腹は痛くなり喉が悲鳴をあげる。自分がいるのは何処なのか、時間はどれくらい過ぎたのか。余裕もないくせに額に流れる汗の分だけ考えた気がする。数えることは出来ない、それくらいに。足を止めて冷静になって考えることは出来なかった。止まって周りを見渡して確認すればいい、それだけの行動でわたしが抱く疑問は解消される。
なのに。"してはいけない"。頭の奥から響いていた。



「……っぁ……は…」



自分の喘ぎ声が耳の奥で反響し始めた頃。限界という言葉が脳裏によぎる。ううん、まだ走らないと。こんなんじゃあすぐ追い付かれてしまう、走らなければ囚われてしまうわ。
とにかく走らないと。それしか考えることができなくなった時。金木犀の小さなオレンジが視界の奥に映った。瞬間、焦燥が生まれる。走って走って、もっと、はやく。気付けば瞼を閉ざしたわたしは前から歩いている人がいることを認識出来なかった。





「―――――っ!!」
「え、うわ、」




人がいる。それがわかったのはぶつかってから。全力疾走とはすでに言えなくなっていたわたしのスピードでも、勢いはそれなりにある。相手は多分男の人だったんだろう。しっかりとした体にわたしの体は反動で後ろへ戻された。そのままバランスを崩して尻餅をつく。
あっという間だった。疲れ果てた体は声を発するよりも先に痛みと目眩によって静かに意識を放した。


閃光が過ぎった刹那
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -