相合い傘2 | ナノ
「要らない。もう俺はびしょ濡れだ。今更雨に打たれたって大して変わらな、……げほっ。」
「ほら、早く帰らないと風邪ひいちゃうよ。愛する人が苦しむところも好いけど、僕は笑った顔の方が好きだよ。」
……一度も君に笑ったことなど無いのに?
「そもそも君は如何するのだ。傘は一つだろう。」
「僕はここで雨が上がるのを待ってるよ。濡れてないし、大丈夫。」
未だ湿り気を帯びた手で、雨引はVサインを作って俺に示す。
「……。」
寒気がする。
これ以上此処に留まれば、確かに風邪をひくだろう。
雨引は傘を返しても無理矢理にでも俺に持たすだろう。
堂々巡りが続けば、互いの身体が冷えてしまう。
「……ありがとう。」
「いーえっ、どういたしまして♪」
雨引はにっこりと笑って、俺にバイバイと手を振る。
俺はぱちゃぱちゃと水音を立てて歩く。
歩く度に水が跳ね、俺が通りがかる度に地へ落ちる雨が傘に妨げられる。
「……。」
曇り空。
重くのしかかった、鋭利なナイフの鈍色。
雫が俺を見下すように降り注いで。
「……黒目ちゃん?」
「傘。二人で入れば良かろう。嫌なら、返す。」
「……好いの!?」
目を丸くする雨引に怪訝に思いながらも、肯く。
「好いもなにも、雨引の傘だろう。」
「そういう意味じゃなくって……。」
相合い傘、恥ずかしくないのかなって思ったんだけど。
黒目ちゃん相合い傘しようって言ったら絶対嫌がるし。
「早くせんと風邪をひくぞ。どっちだ?」
相変わらずの無表情のキミが、少し照れているように見える。
「……もちろん!喜んで入れてもらうよ!」
僕は心からの笑顔で黒目ちゃんに笑った。
うは、よくわからん。雨宿りっていうシチュエーション好きです。
『8月7日の雨宿り』とか。