四、五 | ナノ
「えーっと、先生、こいつは滝澤っていってちょっと最近まで学校に来れなかったんです。
ここのクラスなんですけど……」
「……ああ、滝澤君か! 初めまして。谷在家千秋です。君の担任だよ。
紅蓮君とは知り合いかい?」
「……。」
滝澤が肯く。
「じゃあせっかくだからこっちに来て自己紹介してもらおうか」
先生はそう言ったけれど、滝澤は動けずに困ったように手をわきわきとさせている。
「ん? どうしたんだい? 恥ずかしいかな?」
「えーっと、……滝澤、あのこと言っていいか?」
あのこと、とは声が出ないことだ。
察してくれたのか滝澤は肯いた。
本来なら自分が伝えなければならないのにと、すまなそうに。
「先生、滝澤は声が出ないんです。だから……」
だから、自己紹介ができない。
みんなは好奇の目で滝澤を見ている。
滝澤は居心地悪そうに眉をしかめた。
振り払ってはやりたがったが、みんなの気持ちはわかるし、余計に滝澤の居心地を悪くしそうだ……やめとこ。
先生は目をぱちくりとさせていたが、やがて納得いったように肯いて見せた。
「わかった。それじゃあみんな、滝澤黒目君をこれからよろしく。
仲よくしてくれ。」
お決まりの台詞を先生が言って、授業は始まった。
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