傷 | ナノ
「仲良いなあ、あのふたり。」
呟いて悲しくなる。
滝澤ちゃんは滅多に見せない微笑を浮かべて、山崎となにか話してる。
僕の知らないなにか。
ふたりだけの秘密。
……山崎なんて、僕が殺そうと思えば一瞬で殺せるのに。
僕のほうが強いのに。
僕こそがキミの役に立てるのに。
ねえ、
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
……どうしてあの子なの?
「滝澤ちゃん、背中流してあげるねー☆」
「要らん。……っ、おい、く、くすぐったっ……!」
滝澤ちゃんは隊士と風呂には入らない。
すごく、多くの傷があるから。
刀傷だけじゃなくて、虐められた時のものもたくさん。
だからひとりで入ることが多い。
後は滝澤ちゃんの好きな千秋さんぐらいかな。
僕は無理矢理ついてきてるだけだもの。
「遠慮しないで☆
ほらほらおとなしくしてよ〜!」
「だからいいって……!」
鬱陶しそうに滝澤ちゃんが言う。
もう諦めてるみたいだけど。
『……。』
あ、
「山崎。君も入りに来たのか。」
僕には殆ど向けたことのない優しい瞳で山崎を見る。
当の山崎は笑顔で近寄ってくる。
指の無い手を振りながら。
声の出ない喉を晒しながら。
山崎も余り人と風呂に入ることはない。
普段の広い裾の着流しで隠れてる手が露わになるからだろうか。
…………傷。
滝澤ちゃんはなにかを山崎に話してる。
でも山崎は僕を見てなにかを言おうと口を必死に動かす。
……苛つく。
人心が読めるからって、僕の好きな滝澤ちゃんよりもこいつが僕の気持ちに気がつくなんて。
「……雨引!?」
滝澤ちゃんが驚いた顔で僕を見る。
違うよそいつにしたみたいないやそれ以上の優しい瞳をしてよ。
優しく笑ってよ。
傷があれば僕は滝澤ちゃんと仲良くなれるかな。
傷もの同士、親しくなれるかな。
お風呂に入ったら、笑顔で迎えてくれるかな。
ああ、痛い。
でもこれが、愛しい人へ近付いた証なら。
僕は何度でも痛みを味わおう。