余部の告白 | ナノ
「……。」

『あんたが好きです。』

滝澤副長は目を見開いたまま固まっている。

そんな無防備な顔がとても愛おしい。

……けれども。

其には人心を読み取る能力がある。

制御は殆ど出来ない。

あんたの戸惑いが手に取るようにわかる。

その後の結末すらも。

……わからなければ、その時までは期待もできるというのに。

絶望だけではないのに。

『滝澤さん。』

名を呼んだ。

しかし傷付いた喉から声が出る筈もなく、唇がその形をなぞらえるだけ。

副長は俯いていて、それに気付いてもくれない。

其には愛しい人の名を囁くこともできないのだ。

「……本気、なのか。」

呟きような問いかけ。

其のように表情の乏しい彼は珍しく困った顔をする。

『其は冗談は言えません。』

本気で告白した。

そう真正面から答えられず、曖昧な表現を用いて返してしまう。

その答えが望むものでないのなら。

心からの想いが打ち砕かれるのは、悲しいから。

「……。」

副長は暫し考えてから、其の目をまっすぐに見据えて答えた。

……ああ、そうだ。

この人は真正面から其と向き合ってくれる。

男同士で気持ち悪いはずなのに、其の想いから逃げないでいてくれる。

『…………すみ、ま、せん……。』

言葉を発せられない。

泣き声を上げることもできない。

……聞きたく、無かった。

大好きな声で、辛いことを言われるのは、悲しい。

でも、あんたの声だから。

愛おしくて愛おしくて。

「……俺は山崎を恋愛対象としては見れない。
気休めかもしれないが、俺は山崎を一番の部下だと思っている。」

泣きそうな笑顔で副長はそう囁く。

好き。けれども、拒絶。

残酷だけど、縋りつきたくなる言葉。声。

畳が濡れていく。

涙を拭う指さえ無い。

あんたの名を紡ぐ声さえ無い。

あるのは、いつか消えてしまうあんたの温もりだけ。

『副長。いつか消えてしまうものでも、壊れてしまうものでも。』

其の想いのように打ち砕かれてしまうとしても。



其はずっとずっと、あんたが好きです。






あとがき。
うーん、なにをテーマにしたんだ・・・始めは拷問モノを書こうとしていたのに、書き始めたら軌道がそれてもうた。
山崎は指十本は切り落とし、声帯は傷つけられて声が出ません。
それも副長のための怪我何だよなあ・・・。
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