五 | ナノ
授業も終わり、学園は賑やかになっていく。
購買部で熱すぎる争奪戦を繰り広げる者、外でピクニック気分で味わう者、トイレでひとり食べる者……。
それぞれの自由な時間が時を刻む。
ひとりで食べようとする滝澤を誘い、屋上へ上がる。
昔自殺者が出たとかで屋上は本来閉ざされているのだが、実は秘密の方法で開けられるのだ。
お陰で、高く青い空も、静けさも独り占め……いや、二人占めできる。
ちなみに何時もは秋山と食べるのだが、先生に呼ばれて今日はいない。
「滝澤は弁当かあ。お母さん料理ウマいんだな!」
とてもきっちりと箱に詰められたそれは、とても美味しそうに見えた。
許されることならば、俺のなけなしの金で買ったチョココロネと交換して欲しい。
滝澤が文字を打ち出したので、俺はじっと待って滝澤の手を見る。
日に当たっていないんじゃないかというような、奇麗な手だ。
すべすべしてそうだな……。
『自分で作った。・・・食べるか?』
「食べる!!」
漫画並みの並ではない量のよだれを垂らしつつ俺は即答した。
頭よりも先に身体が動く……素晴らしい反射能力といえた。
欲望に忠誠を誓ったかのような自分の身体を讃えてやりたい。
だって一瞬でも早くこの喜びを味わうことができたのだから!
「うわ! ウマい!
こんなん自分で作れんのかよ!?
すっげえー!」
噛み締める毎に味が増してくる。
仰げば仰ぐほどに食欲をそそるおかず……!
「日本人で! 良かったあああああああ!!!」
俺は感涙にむせび泣く。
ここのところろくなものを食べていなかったせいかもしれない。
まさか漫画みたいに弁当で泣く日が来るとは思わなかった。
大袈裟だな、とでも言いたげに滝澤は軽く肩をすくめて口元を緩めた。
「秋山、こんなにおいしーモン食べれなくてついてないよなあ。
滝澤は料理誰かに習ったのか?」
滝澤は首を振った。つまり料理本とか、独学ってことか。
……そういえば、この弁当だって普通ならお母さんとかが作るんだろうけど……自分で作ってるんだよな。
キャリアウーマンなのかな?
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