六 | ナノ
「あー、やばいな!」
このままじゃ遅刻する!
時刻は八時十五分。
かなり不味い。
「ちょっと、大丈夫!? 車で送ってこうか?」
おはようなどと悠長に挨拶をするどころではない。
「大丈夫です! じゃあいってきます!」
「あっ、朝ごはん・・・」


ぜえ、はあ、はあ・・・ま、間に合った。
本当にギリギリ、済んでのところで間に合った・・・。
数人が俺をちらりと見て、何事も無かったように視線を戻す。
自分の机に向かい、鞄を机の上に置いて一息を吐く。
ああ、もう全力疾走はキツいな・・・。
「おはよう真司くん。」
「おはようぅー。」
「おはよう。」
女子の何人かが挨拶をしてくる。
川上と玄瓶(くろかめ)と佐々木だったかな。
あれ、一人足りない。
「おはよう。そういえば関口は如何したのですか? 何時もつるんでいるではないですか。」
「麻理奈はわかんない。メールしても返事こないし。」
「あたしは電話もしたんだけどぉー、出てこないんだよねー、まあ拾い喰いでもしたんじゃねーの?」
「そんな犬じゃないんだからさあ。」
三人を見ているとまるでかしまし娘だか森三中だかのようだな。
漫才みたいな。
「え? もしかしてえー・・・まりなのコト狙ってんの!? 超ショック!
しーちゃん超イケメンだからあ、狙ってたのにぃ〜!!」
玄瓶が手を胸の上で組んだままぶんぶんとかぶりを振る。
関口の事を狙うわけも無い。
そもそも、君以外の全女性がいなくなったところで頭の弱い尻軽女はお断りだ。
君上っ面しか見ていないし。
まあ俺に選ぶ権利なんて無いけど。
「そういうんじゃないですよ。少し気になっただけです。それより、もう先生来ていますが。」
「え、マジ! んじゃあまたね〜!」
そう言ってミニスカートから別物の生地をちらりと垣間見せながら玄瓶は去った。
「・・・・・・。」
少しは恥じらいというものが存在しないのだろうか。
「〜で、あるからして・・・室谷、37ページの2段落目を読め。」
「えーと? そうして彼は親指をピンと立て・・・、」
・・・ああ、つまらない。
なんてつまらない授業なんだ。
全く教科書通りにする授業とはかくも退屈なのか。
いや、きっと羽村先生の手腕の程度が低いに相違ない。
なんで小沢先生休んじゃったかな、あの人の授業は結構面白いのに。まさか入院だなんて。
しかもその代理が羽村先生とは。
早く手術を終えて来てほしい。
これでは退屈死そうだ。
隣の席を見る。空席。
別に珍しくも無い、空席。
数週間前には、まだ机の主がいたのだが。
机には消えかけた可愛い絵柄の落書きがあり、女子である事がなんとなく想像される。
そして俺の前の席は、関口の席。こちらは休んだ理由がわからない。
机上にはツーショットのプリクラが貼ってあったり、どこかで見たようなキャラクターの落描きがしてあって賑やかだった。
少なくとも、机の上の世界は。
他人の机を見るのにも早々に飽き、窓の外を見る。
蒼空が淡く輝いている。
「なあ、滝澤。」
後ろから声がかかり、半ば反射的に後ろを振り返る。
授業中だというのに気さくに話しかけてきたのは不良の階凌平だった。
『階段』の『階』でキザハシと読む。
随分変わった苗字だ。
「見ていない。テレビは滅多に見ない。」
俺が聞かれた三秒後ぐらいに答えると、数十秒階は俗に梅干という呼ばれるいくつもの皺を顎に作ってからまた訊いてきた。
悩むぐらいなら話しかけるなと言いたい。
「んじゃあスタオは? オレミカエル倒してやっとレベル105。」
「俺は試練の遺跡四階のボス倒したところです。レベルは198。」
「えっ、マジで!? もうあそこかよ!」
割と静かな教室に、階の体型に相応しい大きめの声が響く。
直後に皆の視線と先生の処刑宣告。
「・・・おまえら廊下に立っとれ。」


「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
何故俺までもがこんな目に遭わなければならない?
大声を出したのは階だろうが・・・いやしかし授業中に私語をしていたという点では俺も悪いわけだが。
かといって見つかった原因は階の大声なわけで・・・・・・まあ、考えても仕方が無いか。
「や、悪かったな・・・つい大声出しちまって・・・。」
階が頭を掻きながら申し訳なさそうに頭を下げる。
「・・・もう済んだ事です。」
「そっか?・・・ありがとよ!」
にひひ、と笑って俺を見る。・・・反省しているんだよな?
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