五 | ナノ
「あー、真司、スプーンとおはし用意してくれない?」
「わかりました。」
直ぐ近くの食器棚からスプーン二つと箸を三つ取り出し、各々に渡す。
「ありがとう。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
いただきますを三人で言ってから、麦茶を飲み俺は二人が食べ始めたのを確認して先ずサラダに箸を伸ばす。
確かあいつが一番先に水を飲んで、その次にサラダを食べてから肉や炭水化物を摂ると太るのを抑制する、とか言っていた気がする。
何度となく言われたので、なんとなく俺もそうしている。
テレビは陰気くさい事件について流していて、アナウンサーが無感情に淡々と事件のあらましを伝えていた。
どんなに悲惨な事件であったとしても、俺には関係ない。
アナウンサーにとっても同じだろう。
だから無感情で、無関心で、いずれ忘れられる。
何処か別の世界の出来事のように思い、安穏と過ごせるのだ。
そう、それが被害者にとって口惜しくもあるんだろうな。
「真司。バイトの方は如何だ?
流石にあれじゃあ厳しいんじゃないのか?」
貴志さんがふいに話を振る。
俺のシフトは高校生のバイトにしては随分とキツいのかもしれない。
学校が終わってからすぐにバイト、午後十時まで。
それがほぼ毎日で、休みは水曜日は一時間、日曜日に五時間程あるくらいだ。
増やしたのはここ最近だけど・・・。
「大丈夫ですよ。将来のためですから。それに家賃も払わないと。」
居候とは言うものの、なるべく貸しは作りたくない。
依存はしたくない。
だから、バイトで金を稼ぎこの家に家賃や食費、光熱費などを入れている。
将来は、つまり高校を卒業した時にはこの家を出て隣駅のぼろアパートでも借りて独り暮らしをしようと思っている。
それに、零名の家と、孤児院の・・・。
「真司。何度も言うがもうおまえは私の息子なんだよ。
家賃だとか迷惑だとか、そんなことは気にしなくていいんだ。」
貴志さんは穏やかな口調で言った。
それでいてはっきりとしていた。
貴志さん。@『息子』として思ってくれているのは『嬉しい』です。
でも・・・俺は、・・・従兄弟かなにかと思って欲しいんです・・・もう、親は、いらないんです・・・。
「いえ、これは俺の我が侭なので・・・気が済まないんです。」
「・・・私がどうこう言うものでもないかもしれない。しかし、あまり無茶はしないようにな。」
「・・・はい。」
温かい言葉。
有難い言葉。
俺の心に突き刺さる事もあたためる事もなく、何処かへ消える。
「あっ、そーだ! お父さん、三人で今度の休みにどっかいかない?
たまにはいいでしょ?」
ソラさんが口元を緩ませながら貴志さんに提案をする。
貴志さんも同じように笑った。
「そうだね。どこか行きたいところはあるかい?」
「んー・・・あたしはやっぱり買い物したいわ!
 あとはー・・・ねえ真司、どっか行きたいところない?」
行きたいところ・・・あるけど、図々しいよな。
社交辞令として聞いただけかもしれないし。
「いえ。お二人にお任せします。」
「・・・じゃあ遊園地とか行かない?」
「遊園地か。懐かしいな。どうせなら少し遠くの方に行こうか。」
「そうね! 楽しみだわ〜、来週行こう! 真司、来週の土曜日空いてる?」
「えーと・・・確か土曜日は午前中選択授業が・・・。」
「いいからいいから! 土曜授業は行きたい人だけ行けばいいんでしょ?
サボればいいわ。たまにはいいでしょ?」
「・・・・・・。」
サボりか・・・如何しようかな。
貴志さんを見る。
・・・優しく笑んだ。
少し困った顔をしながら。
「そうですね・・・付き合せて頂きます。」
「やったあ!」
大袈裟にソラさんが喜ぶ。
俺がいても如何しようも無いのに。

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