四 | ナノ
「ただいま・・・。」
「あら、おかえりなさい真司。」
若い女の声が台所から玄関にまで木霊する。
義理の姉だ。
「・・・どうしたの、その怪我・・・?」
訝しげな、『心配』をしている顔でソラさんが問い掛けてくる。
「なんでもないです・・・貴志さんは?」
「お父さんなら、コンビニに行ってるわよ。
もうすぐシチューできるから、座ってなさい。
・・・食べれる? 大丈夫?」
こっちは居候なんだからそう気遣う事もないのに。
「何か手伝うことはありますか?」
「いいからいいから。怪我人はおとなしくしてなさい。」
「・・・いえ、その・・・口の中を切ってしまって、痛くてシチューは食べれそうにないんです。ですから、せめて手伝いを―――「本当に!?」
俺の台詞が言い終わらない内に、ソラさんが迫って俺の肩をがっしりと掴んでくる。
「え、あ、はい・・・?」
「なんで早く言わないの! お医者さんに行かないと!」
俺の背中を無理矢理に押す。
もうすぐ行く事しか頭にないらしい。
いやいやシチューを火にかけたままなんだけど。
「ちょ、大丈夫です! 病院で通りすがりの医師が手当てしてくれたから大丈夫ですよ。薬もほら。」
慌ててジャケットのポケットから白い紙袋を取り出し見せると、俺の顔をじっと見てから溜息を吐いた。
「なら、いいんだけど・・・小さく切ったパンとかなら食べられそう?」
首を傾げながらソラさんが訊いてくる。
顔もスタイルも良く、料理も結構得意なソラさんは、よくできた女性だと思う。
性格はちょっとおせっかいなところとか過保護なところもあるけど、人に優しく出来るし。
「・・・ええ、その位なら。」
「そう、良かった。ゆっくり休んで、リビングでテレビでも見てなさい。」
「はい。すみません。」


・・・ふう。
相変わらず世話焼きだな、ソラさんは。
ジャケットやズボンを脱いでベッドの上に放り、部屋着に相応しい少しラフな服を着る。
ジャケットの下は制服なので、皺にならないようにクローゼットのハンガーに掛ける。
今の時刻は七時半。
何時もは大体四十五分ぐらいが夕餉の時間なので、もうそろそろ下に下りた方が良いか。
下に下りると、貴志さんが帰ってきていた。
何時もと同じように新聞を読んでいた。
「貴志さんおかえりなさい。」
「ただいま・・・どうしたんだ? その怪我・・・!」
またも『心配』そうに貴志さんが声を掛けてくれる。
わざわざ立って。
「ちょっと転んじゃっただけです。もう大丈夫ですから。」
俺がそう答えると、貴志さんは静かに返事をした。
「・・・そうか。」
そしてまた新聞へ目を移す。
「はーい! ごはん出来たわよー!」
食欲をそそる匂いとともに、ソラさんがお盆を持って現れる。
三人分の食事。
人数分の食事が、嬉しい。

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