武士弐之二 | ナノ
もし、谷在家に拾われていなければ。
なんの信念も持たず無意味にふらふらと時を過ごしていたか。
或いは、戦渦に呑まれ野垂れ死んでいたか。
昔のおれを思えば、そんなところだろう。
「・・・私はすっかり忘れていた。信ずるものはなにか。
なんのために剣となっているのか・・・。
ただただ襲いかかってくる敵を切るだけになっていた・・・。血に酔いすぎただろうか。」
自嘲気味な笑みを浮かべ、谷在家は足元の同志を見つめた。
こいつは、なんのために先刻まで武士として生きていたのか・・・。
もう知る術も無い。
「私は・・・滝澤を信じている。」
「は、っ?」
「本当に、背中を預けられるのは滝澤だけだ。滝澤がいたから、私は刀を振るうことができた。
私はおまえと共に人々の為に戦っていこうと・・・そう決めていたんだ。」
「・・・光栄、です。」
其れしか言えなかった。嬉しいです、なぞとは気恥ずかしくて言えない。
顔が熱い。何故だ・・・不思議だ。
しばらくして、なにが可笑しいのか。谷在家はくっくっと笑った。
「なにが可笑しいのです?」
「いやなんでも。・・・とにかく、仲間を弔うか。今まで、頑張ってくれたものな。」
「はい。」
同士の亡骸を埋め、おれの懐よりいくつかの押し花から似合いの花を選び、土の上に乗せる。
「故郷の土に埋めてやりたいが・・・そうもいかないんだよな・・・。せめて、髪と爪ぐらいは家族に届けよう。」
「そうですね・・・。」
流石に戦時に人一人を運ぶことは我が身が危うくなる。
だから持ち運びができる部分を切り、大事な人に届けるのだ。遺体の代わりに。
簡単に経を上げて、合掌をする。
同志に別れの言葉とこれからも頑張る事を告げる。
「さて、と・・・第三拠点に戻るか。」
「そうですね。」
・・・てっきり歩くとばかり思っていたのだが、谷在家は一向に動かない。
一体如何したのだろう?
「・・・・・・。」
振り返りおれを一瞥して、大きく息を吐く。
「なにか・・・?」
谷在家は恐い程に真正面からおれを見据える。
「私についてきてくれるか?」

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -