武士弐 | ナノ
「なあ、俺達はなんの為に戦っているんだ?」
谷在家の呟き。
足元には、同志の亡骸。
でも、もう慣れた。
だから、もう涙は出ない。
おれは、まさに『血も涙も無い』最低な人間に成り下がったんだな・・・人を殺している内に。
「・・・あなたはどうだかわからないが、」
足元の同志が、こちらを睨んでいる。
「俺は、信じているもののために・・・自分のために戦っています。」
憔悴しきった表情の谷在家がこちらにゆっくりと顔を向ける。
「・・・・・・信じるものか。」
多量の返り血は、谷在家の動きを妨げるように隊服にこびりついていた。
「なんだい、それは?」
「・・・お答えできかねます。」
負担には、ならないだろうか?
「答えてくれよ。」
「・・・ご命令とあらば。」
「・・・じゃあ、命令。」
谷在家は薄く、今にも消えてしまいそうなぐらい弱く・・・笑む。
・・・・・・。
「・・・谷在家局長です。」
「え?」
谷在家は驚いた顔でおれの目を見る。
「おれは局長を信じています。そして、其れは、最後のおれの支えです。
其れだけが、おれが刀を振るう理由です。」
「・・・・・・。」
たどたどしくはなったが、答えることはできた。
谷在家は、足元の同志の刀を拾い上げる。
「刀は武士の魂、か・・・。おまえもこいつも、同じようにこうして拾い上げたってのに・・・なんで、だろうな。なんで、死んじまったんだろうな。」
血を振り払い、刀を夕陽に翳す。残り血と共に、刀が鈍い輝きを放つ。
「・・・生きています。刀は、魂は、まだ生きています。」
刀が、武士の魂ならば。
「・・・そうか、・・・そうかもしれないな。なら、少しは・・・。」
そこで言うのを止めて、谷在家は静かに刀を同志の傍らに置く。
此方からその表情はわからない。
「滝澤はおれを信じて戦う、か・・・ありがたいな。ただ、もっと自分のために戦ってもいいと思うが。」
「これは自分のためです。谷在家局長がいなければおれは今頃如何なっていたことか・・・。」
あの時、谷在家に拾われなかったならあのまま殴り殺されていたかもしれない。
そうでなくとも。


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