03月20日(日)03時05分 の追記



―――ホコリの臭い



そんな臭いに混ざって空気に触れ酸化した紙から発せられる独特の臭いが鼻に付く
普段の生活においてあまり嗅ぎなれない臭いを嗅ぎながらルシフェルは一人思案する、どうしてこうなったと



話は少し前に逆上る
下校時刻もとうにすぎ、部活や委員会活動などをして校内や校庭にいた生徒達も寮へと帰宅しているためか、すっかり人気の無くなった校内をルシフェルはのんびりと歩いていた
目的地は図書室、校舎の端にあり、カトリック制の高校ゆえに聖書など、キリスト教に関連した書物がおかれているが、それに加え一般的な本なども合わせるとあまりにも膨大な量になるためか、それらを収納する図書室は図書館とまではいかなくともそれなりの広さを誇っている
普段からあまり利用者のいない室内は、空調が程よく効いており、本棚の圧迫感さえ除けば大変に過ごしやすいものとなっている
しかしルシフェルが図書室へ来たのは本を読むためでも貸し借りをするためでもなく、ただ人に会いに来たという理由で尋ねたのだった


そんな彼がどうして、大量の本の下敷きになっているのか
理由は簡単なものであった





「大丈夫か!?」


つい今し方起きた軽い地震の影響により、本棚こそ倒れなかったものの大量の本が床に散乱し大変な惨状が作り上げられている、イーノックはカウンターから出て本棚へと向かった
聞き間違いではなければ本が床に落ちる音に混ざり、人の呻き声が聞こえてきたためである
普段はこんな時間帯に人がいる筈がないのだが、もしも誰か居るとしたら一刻も早く助けなければならない

声がしたと思われる場所へ向かい、安否を伺うと
やや遅れて、「大丈夫…とは言えないかな…」と、聞き覚えのある声がした

「ルシフェル?」

普段本などあまり読まぬ彼が何故こんな所に?
そう思ったが今は彼を助ける事が先であろう
取りあえず彼の上からどかした本を脇に寄せながら彼の手を掴み体を起こさせる

「いやぁ、すまなかったね」
「あぁ…、そんな事よりも怪我とかしてないか?」

どこか痛む所は?と、心配するイーノックを「母親みたいな事を言うんだな」と茶化し、大丈夫だと答える

「それなら良かった、…それにしても何故貴方がここに?」

滅多に図書室なんて来ないのに、と先ほど浮かんだ疑問を提示してみる

「ん?いや……たまには私の方から迎えに行こうかと思ってね、何時も迎えに来てもらってばかりでは少々気が引けるし…」

普段はイーノックがルシフェルの教室まで迎えに行って寮まで帰り、今日のように委員会活動などで遅くなる日などは先に寮へ戻っているかのどちらかで、自分からはあまり会いに行くことがないなと考え、たまにはと今回のような行動に出たのだった

あまり慣れない事はするものではないな、などと笑っていると
イーノックが少し俯き気味になっている事に気がついた

「? どうしたイーノック?」

のぞき込むようにしてイーノックの顔を見ると
ふふっ、と小さく笑いながら

「いや…、貴方がそんな事を考えていたなんて」

つい、と嬉しそうにはにかむ、そんな様子のイーノックに少し面食らったようだったルシフェルは少し恥ずかしくなり

「う…、私がそんな事を考えていた事がそんなにおかしいか」

視線を逸らし、少しいじけた様子にイーノックは慌てて

「そういう意味じゃなくてっ!」
「じゃあどういう意味なんだ?」
「…少し……いや、凄く可愛いなと思って」
「なっ…!」

何を言っているんだと言おうとした所で不意にイーノックの手がルシフェルの紙へと伸ばされ顔が近付く
咄嗟の出来事に思わず目を瞑りかけたルシフェルに「付いる」と先ほどの本とともに落ちてきたと思われるホコリを摘みあげながらイーノックが笑う

お約束かよ……!

ホッとしつつもやはりこのままの流れなら………などと考えていると、イーノックがどうかしたのか?と尋ねてくるので慌てて何でもないと答え、「それよりもこの本をどうするつもりだ?」と話をふり、何とか誤魔化す
それを聞いてイーノックは改めて辺りを見回すと、申し訳なさそうに

「すまないが、手伝ってくれないか?」

確かにこの場所以外にも本が落ちている所はある筈だ、それを一人で片付けるとなると相当な時間が掛かるだろうし早くしないと門が閉められてしまう、それに夕飯にも間に合わなくなるしな

そんな事を考えながら本を抱えて急いで棚に戻そうとして慌てているイーノックの手伝いをすべく、横に寄せてあった本を掴んだ









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