僕は君で暖をとる。


「あーさみぃ」
「…トウヤ、こたつから顔出しながら何言ってんのよ」

トウヤから少し離れたところで編み物をしていたあだ名は手を止めて、呆れたような顔をして言った。

「あーさっむ」

だって寒いもんは寒いだろ。
ふと、窓に目をやる。
今こそこたつの中でぬくぬくしていられるが、もし外にいたらと思うと、自然と体が震えた。
確か天気予報では今日の気温は1日通して一桁だと言っていた気がする。
とにかく寒い。
ぼーっとしながらあだ名に視線を移す。
先ほど止めた手は、またせっせとせわしなく動いており、何かを編んでいた。
それがなんなのか少し気になって、彼女に声をかけてみるも、さっきから生返事ばっかで、ずっと編み物に専念している。
なんだか編み物に彼女を奪われたような気がして、少し寂しくなった。
編み物に嫉妬なんて、我ながらどうにかしてる。
…それにしても寒い。
確かにこたつも暖かいけど、何か物足りない。
あだ名を見ながら、俺はもっと暖かい、柔らかな温もりが欲しいと思った。
彼女に向かって手を伸ばす。…が、届かない。
こたつに入ったまま手を伸ばしても、その手が彼女に届くわけもなく。
こたつから出ればいいだけの話だが、折角暖まってきたのだし、やっぱり動きたくなくて。

「あだ名」
「なに?」
「ちょっとこっち来い」
「なんで?」

そんなこと言いながらも、彼女はゆっくり立ち上がり、こっちへ近づいてきた。

「もう少し」
「はぁ…」
「ほら、前座って」
「…ここ?」

あだ名が俺の前に座ったのを見計らって、俺はこたつの中からまた手を伸ばし、彼女の腰に抱きついた。

「ちょっ!?」

ぎゅうっと力を込めて抱きしめる。

「あぁ、あったけぇ…」

顔をあだ名の腹部にすりよせる。
すると彼女は「ばか、くすぐったい」と言いながら優しくトウヤの髪を撫でた。
じわじわと、そして確実に、なんともいえない安心感と幸福感で満たされていく。

どんなに厚着しても、こたつにはいっても、俺の心まで暖まりはしない。

だから




僕は君で暖をとる。


「そういえば、さっきから何編んでたの?」
「あぁ、これ?トウヤが寒い寒いうるさいからマフラーをね」
「…その、ありがとな」
「どういたしまして」




前サイトから。素敵企画サイト様惑星に提出したもの。


 



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