君は砂糖


「足りない」
「は?もうおかわりないよ」

不機嫌そうな顔を隠そうともしないあだ名。
それもそうだろう。何故か急に会いたくなって、突然彼女を呼び出した挙げ句、
彼女の料理が食べたいと、俺が散々駄々をこね、
半ば無理矢理にご飯を作らせたのだから当然なんだけど。

「そうじゃない」

足りない、確かに食欲もまだありあまってるけどそうじゃない。

「なんかわかんないけど足りない」
「意味分かんないし」

眉をひそめてこちらを見るあだ名。
その顔は頭大丈夫?とでも言いたげだ。
事実、俺でも意味が分かんない。
だけど、足りないんだ。

「ねぇ、なんかないの?」
「ないっていってるでしょ、第一何が足りないのよ」

ブツブツいいながらも、皿を運び、皿洗いを始めるあだ名。
しばらく彼女の後ろ姿をぼーっと見ていると、ふと気づいた。
なんだ、そんなことだったのか、簡単じゃん。

「わかった」
「んー何が?」
「…あだ名」
「なに?」
「あだ名が足りない」

彼女を後ろからぎゅっと抱きしめる。
彼女の変わらない温もりと柔らかい感触が落ち着く。
そして、彼女の髪からは、ふわりと甘い香りがした。
皿が割れるだのなんだの言ってるけど、今は関係ない。
味気ない生活。
足りなかったのは君だった。


「…好き」
「…ばか、そんなこと分かってるよ」




君は砂糖



まるで溶けてしまいそうなくらいに、甘い甘い一時を、君といつまでも過ごせたらいいのに。




前サイトから。素敵企画サイトさま、花畑に提出したもの。



 



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