RAINING DAY
「あ…め…?」
空を見上げると、小さな雫がひとつ、またひとつと落ちてきた。
「嘘でしょ…」
さっきまであんなに天気が良かったのに、ちょっと目を離すだけでこんなに変わるなんて。 私は急いで近くのコンビニの前へ駆け込んだ。
「ふぅ…」
急いで駆け込んだおかげか、そこまで濡れてはいないが、濡れていることには変わりなく寒い。
「あー、早く止まないかなぁ…」
現状に思わず溜め息をつく。 今日は天気予報で晴れだと言っていた。 私はその言葉を信じていた。 だから私は傘なんて持っているわけもなく。 このままコンビニで傘を買えたらよかったけれど、私自身財布をあまり持ち歩かないので、残念ながら今日はお金を持っていない。
「早く帰りたいな…」
入り口から少し離れたところにしゃがみ込んで呟く。 一瞬隣にある傘立てから傘を盗んでやろうかと思ったけど、
「そんなこと、出来るわけないわな…」
盗みなんかしてまで濡れずに帰るなんて、生憎そんな悪いことするような度胸はない。 私は諦めて雨が止むのを待つことにした。
「雨なんか嫌いだ…」
雨が降っているのを眺めることは別に嫌いじゃない。 ただ、濡れるのが嫌なだけ。 雨が止むまで暫くじっと待っていたものの、雨足は弱まるどころか、降りしきる雨は一層強さを増すばかり。 そんななか、扉の開く音がした。おそらくコンビニで何かを買ったであろう人の影が、こちらに歩いて来る。 きっと傘を取りに来たのだろう。 そう、傘さえあれば… そんなことを思いながらぼーっとしていたら、その影の主が、不意に私の名を呼んだ。
「よぅなまえ」
振り向くと、そこには特徴的なウニ頭…じゃなくて見慣れた顔が。
「…何のよう?」 「何のよう?って、お前相変わらず冷たいなぁ」
呼び捨てでなれなれしく話しかけてくるのは、同じクラスのグリーン。 彼とは腐れ縁で、幼い頃から一緒にいた。 どうしたんだよ?と彼は私の隣にしゃがみ込む。 私は答えなかった。 別に彼に言う必要性もないし、第一答える意味がない。 グリーンは何かに気づいたのか、あ、と声を出した。
「お前、もしかして傘がなくて雨宿りしてんのか?」 「…そうだけど」
見れば分かるでしょ、と冷たくあしらう。 すると、グリーンは一瞬驚くも、すぐにニヤケた顔になり言った。
「お前、結構ぬけてるんだな」 「なっ!?」
確かに私はぬけてる。 忘れ物だってよくする。 だけど、彼に言われた途端、何故か急に恥ずかしくなった。
「私、帰るっ」 「お前っ、ちょっ、待てよ!!」
私はいてもたっても居られなくなって、あれだけ嫌だった雨の中を駆け出そうとした。 しかし、彼の手が、私の片腕を掴み、そうはさせてくれなかった。
「…何よ、離してよ」 「まあまあ、落ち着けって、な?」
いつの間にか、グリーンに両肩を掴まれていて、互いの顔が向き合う形になっていた。 そのままグリーンに顔をのぞき込まれる。 真摯な瞳に見つめられ、思わずドキリとする。 なんだか恥ずかしくて、私は顔を合わせられなかった。
「雨宿りしてたってことは、濡れたくなかったんだよな?」
俯きながらも黙って頷く。
「じゃあさ…」 「…?」 「もしよかったら入れてやるぜ?」 「ほんと?!」
思わずばっと顔を上げる。
「俺が嘘つくかよ」
私の言葉に対し、ニカッと笑いながら答えるグリーン。その笑みに思わず見とれてしまった。 彼に迷惑をかけてしまうし、どうしようか迷ったけれど、このままじっとしてれば雨が止むんでくれるとは思えないし、濡れて帰るのはやっぱり嫌。 答えはもう決まっていた。
「…しょうがないから入ってあげる」 「なんだよそれは」
オイオイと言いながらも、傘を差し出す彼。
「ほらよ」
RAINING DAY
そのときのグリーンの頬は、少し赤かったような気がした。
前サイトから持ってきたもの。
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