消えないもの



「あ、」

ガラス越しに空を見ていると白い粒が一つ、また一つと舞い落ちてきた

「雪降ってきたね」
「ほんとだ。でも私苦手なんだよね。見てる分には綺麗なんだけどさ」

ほら、積もると学校行くときとか大変だし
なんて言いながら笑う彼女は、本当は雪が好きなんだろう

僕は雪が嫌いだ
真っ白な雪はどこからともなく降ってきて僕らの目を奪う
冷たいそれは僅かな熱で溶けて消えてしまう
それでも降り積もるその姿は誘っているようで
思わず手を伸ばしてしまう
自らの手で触れたところからじわじわと熱で蝕んで
自分のせいで変わっていく
それがなんだか嬉しく感じて
だけどそう思うのは僕だけではなく
雪も雪でそのつもりはないのかもしれないけれど等しく皆を誘い迎え入れるものだから
気がつけば初めの頃の汚れを知らない美しい姿は
色々なものと混ざりあい、黒ずみ、ぐちゃぐちゃに醜く歪められていて
そんな姿になりながら、せめて氷となってこの場に留まってくれていたとしても
最後にはやはり消えて無くなってしまう
正確には、あるべき場所に戻り、また冬に僕らの元へとやってくるのだけれど
それでも僕は消えてしまう雪が嫌いだった

「ほんと、見てる分にはいいんだけどね」

小さな声でぽつりと呟く
それは真っ白な雪に対して言ったのか
それとも彼女に対して言った言葉なのかわからない

だけど

「なまえ、」
「ん、どうしたの赤司」
「…なんでもない」

壊れないようにそっと、だけどしっかりとその背中を抱きしめる
この温もりで溶けることはありえないと十分理解していても

「なまえ、」
「なに」
「好きだ」
「知ってるよ」

僕は彼女に消えないでほしいと確かに思った





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