いらっしゃいませ
「まいど」
彼の声を聞きながら俺は先程買った商品を片手にコンビニを出た また、来てしまった このコンビニを利用するのは何度目だろう 彼にレジを打ってもらったのは何度目だろう
真夜中のコンビニ 初めて彼にレジを打ってもらったときは正直なんだコイツって思った アルバイトだろうこの男性店員、髪はボサボサ、棒読みの挨拶、営業スマイルを張り付けることは愚か、こちらを一度も見ない 一通りレジの仕事を終わらせたらまた直ぐこのコンビニの商品である筈の本を読み始めて いくらこんな時間のバイトとはいえいかにもやる気の無い態度に思わず苦笑いしてしまったのを覚えている
変な時間に目が覚めた 起きる時間としてはまだまだ早くて、けれどもう一度寝る気にもなれなくて 散歩がてらコンビニに足を運んだ
こんな時間にかけられるとは思っていなかった声にびくりと震える 女の子のように俺の姿を見てきゃあきゃあはしゃぐ訳でもなく ただ淡々と落ち着いた声で一言 声のした方向に視線を移すといつぞやのあの店員さん 前見たときと変わらず視線はずっと本に向けたまま だけど
誰もが寝静まるこの時間 彼はなにも言わずに俺をあたたかく迎え入れてくれたように感じて嬉しかった
ただそれだけ
そんなのどうでもよかった筈なのに
気がついたらまた来ていて 欲しい物なんて無いのに適当に商品を買って もしかして、毎回同じ時間に同じ物を買っていたら顔を知らなくても常連さんだって気付いてくれるんじゃないかなんて思ったらすぐ行動に移してて いつの間にか、小銭があっても彼に少しでも触れたくてお釣りが出るように支払ったりで
本当に俺、なんでこんなことしてるんスかね
今日もこのコンビニの訪れる
「らっしゃいませー」
いつもと変わらない気怠げな声 それでも俺を迎えてくれた気がして心があったかくなる そして響く、ペラリとページを捲る音 今日はその音がやけに鮮明に聞こえて なんとなく、彼が読んでる本はなんだろうと思い、バレないようにちらと視線を送る 俺は彼が手に持つ雑誌を目にした途端、今しかないと思った 足が、自然と彼の前へと向かう 彼はなにも頼まずレジの前で立ち止まった俺を不審に思ったのか、今まで一度も上げることのなかった顔を上げた すると、みるみる顔が驚愕に歪んでいく それを目にして俺は自分の口角が上がるのを感じた 初めて彼の瞳に俺の姿が映った 彼と真正面から向き合って、改めて思う あぁ、俺、この人が好きなんスね
「店員さん、俺と付き合って欲しいっス」
彼の手から力なく落ちた雑誌 その表紙で黄色い髪のモデルが挑戦的な笑みを浮かべて俺をみていた
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