2013/10/02
無題
支部に出してた モブvs笠松 の3を一度下げてここに保管しとく。
ちゃんと書き直したら、上げなおす。

「渡邊部長。」
「・・・んだよ。」
「森山の面倒見てくれてありがとうございました。」

笠松が小さく顎を引き、その角度のまま、唇の端をわずかに引き上げた。

「でも、もう、制限時間です。」

推薦で入った特権と言ったところか、一年にしてスタメン。この合同練習最後の時間にくまれた、スタメン同士の練習試合。渡邊にとってはカウントダウンになる試合の一つで、笠松にとってはまだまだ前哨にすぎない試合の一つで、顔を突き合わせる。

「実力ある癖に、こんなところにいるような奴に、負けませんから。」

口調こそ丁寧だが、一語一語に孕まされた感情は、底冷えするほど重い。そして、その重さと対照的な、怒気とも違う熱を感じる。
キュッ、バッシュが体育館の床をこすって、笠松の足が引かれ、そろった。そして、そのままのスピードで、タメも作られることもなく、笠松の手のボールは、空中に投げ出される。

「この試合中に、最低でも三本、アンタから取ってやる。」
「・・・ハ、これは除いてってことか?」
「もちろん、最後、五つ目は、」
「させっかよ。どれだけの思いで口説き落としてつないでると思ってんだ。」

合わせ鏡の向うのように、似た顔が互いを見つめる。だが、鏡とは違って、動きは異なるし、細かい部分が色々と異なる。刈り上げた髪も、渡邊の方が長めで、身長も、渡邊の方が高い。細さからしても、渡邊は、笠松より細いように見える。笠松は、渡邊より幼く、渡邊よりも、力強い。

自陣のリングに背を向けたままにしていた渡邊は、急に笠松をかわして走り出す。そして、気が付けば、彼は手にボールを受け取っていて、そのまま一人でリングにボールを叩きこんだ。

「ガキが。」

決めるのは、あいつ自身だ。その台詞は渡邊にとって、精一杯のやせ我慢に過ぎなかったのだが。






初めて森山由孝を知ったのは、月バスの特集だった。学年の問題と、所属高校の問題で、森山について、全く知らなかった渡邊は、少し残念に思った。特集で森山は笠松幸男や黄瀬涼太の半分、いや、四分の一さえスペースがない。あくまで彼は引き立て役でしかなかった。背は高く顔がいい、そして、線が細く白い。黄瀬の隣に立たせるにはかなりいい具合だ。そんなくらいだろう。
俺が森山に興味を持ったのはそんな商業目的に埋もれてしまっている可哀想な後輩に対する感情からだった。全く接点のない、互いに少しも知らない人間で、しかも、ポジションさえ違う。それでも、なぜか、近しものさえ、感じた。

そして、俺は、海常高校の試合を見に行った。ITでは、桐皇に負け、WCには、誠凛に負けた。俺はその試合中、やはりずっと、森山由孝を見ていた。コイツはきっと、推薦は、おまけ程度にしか、貰えないんだろうな。秀徳高校との三位決定戦の時も、やはり、森山よりもほかの選手の方が目を引く。スカウトするなら、不安定なシューターよりも、安定した大坪・笠松の方がいいだろう。その競争を避けるにしても、きっと宮地・小堀と人は選ぶ。もし大学が、このセットであることが意味があると考えたとしても、森山へのアプローチは低いだろう。そう思えた。

だから俺は迷わず、監督に相談した。あいつをうちに入れようと。


監督は腑に落ちない表情をしていたが、俺の判断を信じると笑い、彼にも指名を出してくれた。そして、彼はここに来た。来た理由は正直言って最悪だった。でも、ここに来たことに意味があるのだと思った。理由がどうであれ、俺になついてくれることに、悪い気もしなかった。

「先輩!」

なんて、綺麗に笑うんだろう。最初はそう思った、そして、次第に、その笑顔が、変わって、なんて、無邪気に、笑うんだろう。俺は、完全に、






「で、どうだよ。おい、聞いてんのか?」
「・・・あ、すまん、」

短い休みに、さっさと体制の変更と修正を済ませなければいけない、大事な時間に、俺は。気が付けば隣に森山が寄ってきていて、綺麗な長い指先が俺の額に当てられた。

「先輩、大丈夫っすか?今日なんかおかしいですよ。」
「・・・由孝。」

指先が離れて行って、その代わりにと、冷たく冷やされたボトルが当てられる。

「もしかして、俺の風邪がうつってたりします?」
「・・・風邪なんて、ひくわけねーだろう。」

そもそも、風邪なんて、誰も引いてなんてないじゃないか!あれは俺がこいつを監禁している間に仲間についた嘘で、裏切りの証明だ。だがそんなこと、森山本人以外、知らない。そして、森山由孝も、なんで、そんなに笑うんだ。

「なんだ、渡邊、自分は馬鹿です発言か?」
「ンなわけねーだろうが、お前より成績うえだ死ね。」
「ヒデ!」

短い馬鹿なことを言っている間にも時間は着実に削られていく。分かってる。俺が今何をすべきか。

「森山。」
「はい?」
「試合でるか?」
「っす!部長!」

両手拳を握り二カっと笑う。じゃあ、次のタイムアウトで交代な。そういって森山の頭に手を載せる。すると、なぜか、泣きそうな顔をされた。

「先輩・・・?」
「・・・ん?なんだ?」

森山は口を小さく開き、再び閉じる。そしてまた、"綺麗な笑顔"を俺に見せた。

「頑張ってください。」
「お前も頑張るんだよ、馬鹿。」


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