2013/09/15
無題
黒バスホラーの続きの下書き保管
子どもとは、他人より優位に立ちたがる、大変正直な生き物である。そして、他人と大幅に違うことを厭う純粋な生き物だ。
俺も、他人より優位にあることが嬉しい、素直な子どもだった。小学校に入って、平仮名で名前を書くこと以外の文字を覚え、その中で、自分の名前を漢字で書ける子供は、周りよりも優位にいた。俺は名前以外の漢字も覚えているような子供で、その年相応に運動神経も良かった。だが、学年が上がるにつれて、学力は、人よりも優位にい続けることは難しくなった。運動の方は、いいのだ。各分野があると、理解していた。でも、勉強は、まんべんなくできてこそ、優位だ。分かりやすく上位が存在する。それを知った。

俺の家は古い一族らしく、ほかの友人たちとは明らかに違う、和風の大きな家には倉とは別に蔵があった。普通の家にはないような蔵は、俺の家だけにある自慢で、俺はよくそこに忍び込んだ。蔵の中には、沢山の手書きで書かれた本や掛け軸、調度品が収められていて、普通の小学生が知らないような漢字や普通の小学生が知らないような調度品は、俺にとっての優位になった。しかし、そんな俺に祖父は良い顔をせず、蔵には入らないように。と俺に言いつけた。それをこっそり破る俺は祖父に叱られ、父に何故だめなのかを聞いてみたが、父は蔵について、祖父からは何も聞いていないのだと、言っただけだった。
第一、父には、蔵を開ける事さえ、できないのだと。

当時の俺はよく理解していなかったが、今になってみれば、可笑しいにもほどがある。
俺は、全く知らなかった漢字を読んでいた。全く知らない文章を、理解したような状態だった。
明らかに、異常、だった。

その当時、俺は近所に越してきた、森山由孝という少年と仲良くなった。森山は一言でいうと、変わった雰囲気の持ち主だった。来ている服はいつも浴衣のようなもので、近所の子供たちは、時代劇!と笑った。父親が、森山さんちは、華道のお家柄で、日本人の誇りなんだよ。と俺に話したから、俺は森山に興味を持った。

「笠松くん、きみ、変なものよんだ?」
「・・・は?変なもの?」

今になってみれば「よんだ」は「読んだ」ではなく「呼んだ」だったのだろうと、理解できた。ただ、当時の俺には、気持ち悪い感覚だけが襲った。

「分からないなら、いい。悪いものではないし。」
「何言ってんだよ。」
「ねぇ、最近、身の回りで、悪いこと、ない?」

森山の言葉が、その時俺には非常に恐ろしかった。森山の瞳は、どこを見ていたのだろう。

「たとえば、おじいさんの体調が、悪い。とか。」
「・・・っ!」

俺はその時、純粋に、気持ち悪かった。実際、その当時、それまで元気だった祖父が、俺が蔵にさえ近づかなければ、常に優しい目元をしていた祖父が、体調を崩していた。そして、俺の上を見て、悲しそうな表情を、苦しそうなな表情をするのだ。その子には、荷が重い。頼むから、その子だけは。と。俺に戻ってくれ。と。

そして俺は、森山を避けるようになった。家に帰ってくれば、父にさえ開ける事の出来ない蔵に立てこもり、中で書物を読み漁った。祖父が体調を崩した原因が分かるかもしれないと、思ったから。そして、森山が家の中には入れても、父にさえ入れない蔵には入れないのだから。と、ずっと、中でものを弄って過ごした。最後の日まで。


そして、俺が目を覚ました時最初に見たものは、目いっぱいに貯めた涙を俺に落とすことがないようにと、耐えているような表情の、真っ赤に染まった森山の姿だった。

後で知った、俺は知らず知らずのうちに、術を完成させ、そしてまた、知らず知らずのうちに強制解除をしたのだと。
俺は知った、俺は一度死んで、森山に、助けられたのだということを。






「俺はここで、一度死んだんだ。」

笠松が急に、黄瀬と小堀を自宅に招いた。笠松が自宅に二人を招いたことは数回しかない。そこへ急に、二人をここへ連れてきた。二人は笠松の急な行動を咀嚼しきれず、モヤモヤとしたまま、ここに誘導された。笠松の家は純和風の豪邸と言って過言ではない、資産価値を推し量れないような家で、庭も、庭園と言って差支えがない情景だ。訪れた数回のうち、一度たりとも、庭に出ることを笠松は許さなかった。そんな笠松が、門から率先して、道を無視し、庭を突き進んで、ココへと二人を連れてきた。

「・・・は?」
「俺は、ここで、一度死んだんだ。」

笠松はその大きな扉に手を掛けようとして、ひっこめた。そして、黄瀬っと、声をかける。その表情からは、笠松が何を考えているのか、全く推し量ることができない。暗い夜に大きな月が、蔵の中を覗き込もうと照らしている。その影になる笠松の瞳は、どこで光を拾ったのか、怪しく、鋭く光っている。

「この扉は、鍵をかけてない。お前、あけてみろ。」
「・・・はい?」
「押しても、引いても、どっちでもいい。」

笠松は黄瀬の背を押して、扉の前へと押しやった。黄瀬は解せない様子で、笠松を見て、意を決したように片手を扉に伸ばす。そして、力いっぱい押した。しかし、扉は音さえ立てることをしない。コンクリートの壁に立ち向かっているような、静寂を保っていた。

「・・・え?」

黄瀬は今度は反対に、引こうと試みた。蔵の戸はどう見てもスライド式ではなく鏡開きのはずだった。それの向きは良く分からないが、押してダメなら、引いてみるのが、普通だ。だが、黄瀬が力いっぱい引いた反動は、壁にはいかず、自身に帰り、黄瀬は盛大に後ろに倒れる。尻餅、状態だ。

「やっぱりな。次、小堀、やってみろと。」

小堀は困惑した表情で同じように扉に手をかける。本気の表情での動作が、まるでパントマイムのそれであるかのように見えて、ある意味滑稽だ。ただ、これは本人立ちにしてみれば、笑いごとではないのだ。笠松は黄瀬のように小堀が後ろに倒れる前に、もういいと声をかけた。

「二人とも、少し離れろ。」

笠松は静かに近づいて、軽く、本当に軽く、だ、扉に、触れただけ。それだけで、扉は古めかしい木材の戸特有の音を立てって、ゆっくりと開いていく。それ以上に解せないことには、笠松は押したにもかかわらず、扉は外向きに、開いた。

「黄瀬、お前、口元押さえろ。」
「え?・・・っぐ、っご、ッゴホッ。」

黄瀬は口と胸を抑え、激しく咳き込み始めた。痙攣のように繊細に体は何かに反応し、黄瀬はそれを拒絶して吐き出す。

「それに慣れれば、黄瀬は問題ない。黄瀬、この蔵の中に、何が見える?」
「・・・え・・・?」

手のせいで、くぐもった声は、疲れのようなものがにじんでいて、たった数秒で、何十キロも走った後のような状態に黄瀬が鳴ってしまったように感じた小堀は、顔をしかめて、蔵の中を見た。

「え・・・?笠松さん、何時の間に、蔵に明かりをつけたんすか・・・?」
「俺は、ココから動いてねーよ。つけたのは、俺じゃねー。」
「でも、っぽって!・・・中から、なんか、変なにおいするし、」
「何の匂いだ?黴臭いとかか?」
「え、違うっす、もっと、生理的に受け付けたくない、生々しい、何処かでかいた、・・・血の。」

黄瀬の顔がさぁと青くなり、蹲るようにしていた体制から急に立ち上がって蔵の中へと入っていった。

「これ、なんすか!?笠松さん!?」
「・・・黄瀬は見えた、と。じゃあ、小堀、お前は?」

笠松さん、と、叫ぶように名を呼ぶ黄瀬を無視して、笠松は小堀に問う。小堀の目には、蔵の中の灯は見えない。そして、血なんてものも、

「俺には、団のまま置かれたひな人形とか、ツボ、とか、掛け軸みたいなの、とか、が、月明り程度で、見える。」
「・・・親父が言ったのと同じだな。」

一度だけ、俺が開けっ放しにしていた扉から、父親が中をのぞいたことがあった。その時、父親は似たようなことを言っていた。ただし、その時は、この床の、血だまりは、存在なんてしなかった。

「・・・そうか。」
「どういうことっすか!?」
「・・・小堀、お前、ここに残るか?」
「え・・・?」
「選ぶのは、小堀のだ。お前の意思を尊重する。俺は、お前の意志を否定しない。」

笠松は一度、ふらりと蔵の中へと入って言った。黄瀬の耳には、チャプ、ピチャ、っと、液体が跳ねる音が聞こえて、吐きそうになる。小保には全く聞こえないらしく、そんな状態の黄瀬を見て、小堀は黄瀬に駆け寄った。

「黄瀬、」
「だいじょう、っぶ、っす。それより、」
「小堀、お前が選ぶんだ。どうしたい?」

笠松のズボンの裾は、何かでぬれたような染みができており、そこから、なにか、生々しいにおいが、小堀の鼻孔を刺激し、

「小堀、無理、すんなよ。」

笠松の言葉が、お前はここに残れ、と暗に示しているように聞こえて、噛みつくように顔を上げた。そして小堀は、勢い、と言ってもいい言葉を口にする。

「俺は、ここに一人で残されるくらいなら、死んだ方がましだよ!」
「・・・ココの血の匂いが嫌、だからか?」
「違う!森山が、一人で苦しんでいるのなら、俺だって、分かち合いたい。それが己の命を危険にさらすことだとしても!」

本能的な警報は、既にガンガンと頭の中で鳴り響いている。この扉があいたときから、既にその予兆はあったのかもしれない。人間の脳は、すべてを見ないようにリミッターがついているのだと、何かで聞いた。すべてを聞かないようにリミッターがついてるのだと。


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