2014/02/23

「やぁ、君がホーズキ?うわ、僕には及ばないけど綺麗な顔」

白い白い、どこまでも白く見える男がそう声をかけたのは一週間前の事だった
訳も分からず癪に障り、蹴り倒して殴りまくりたい衝動をどうにか飲み込んだのは未だに後悔している





私は幼い頃に両親と今生での別れを済ませた身だ
幸運にも、五道という学術界で名の知れた一族の転輪(テンリと読む)という男に引き取られた
法学者のクセに宗教学や歴史学、民俗学にもやたら詳しい年齢不詳な童顔染みた顔の男だ

正直、転輪なんて名前、どんな意図で親は付けたのか、謎だ
彼は若いが優秀で先程の説明からも分かるように博識だ
だが、どこかポヤンとしていて関われば関わるほど抱いた幻想を幻想でしかないと突きつけてくる好青年だ
そんな人の養い子である私は、五道鬼灯と名乗っていた

小6から五道を名乗っている
モテるくせに抜けきった義父と毎日入り浸るエンマ(円満と書くらしい)というでかいおっさん(正確には転輪の兄であるため義叔父)を反面教師にすくすくと育った
癪だが自分でも多少は認めざる負えない程に、四十五度くらい斜め上に向けて

中学、高校と文武両道を極め、部活動は剣道部と科学部を兼部
自分で言うのも何だが、其々素晴らしい成績を納めた
まぁ、剣道はザックリ言うと中高生程度の全国大会で連覇程度の実力だ
科学部では一度校舎の屋根に穴を開けた
まぁ確りと部活はし、成績は常に主席、その上で生徒会には副会長として参加した
そのせいか、生徒たちからの羨望と畏怖、畏敬と嫉妬とを一身に浴びた

勿論首席で卒業証書を得た鬼灯は、大学は近くの国立大で良いです、と、あっさりとした進路選択をした
散々薬学と法学とで悩み、周りに波風立てさせながら、最終的には、薬学を学ぶ道をとった
良く考えたら先程紹介した義父、転輪が名の知れた法学者なのだ
分からない事は彼に聞けば良い。格安講義だ
司法試験を受ける気になったら予備試験とそれと研修でどうにかなるだろう






そんな感じで、薬学部にいた
まだ二回生で先は長い。が、既に五道鬼灯の名は大分有名になっていた
まぁ正直、入って二か月もしないうちに噂の対象にされていたらしい
知らないし、興味もないのだが
今は、この大学の学生で彼を知らない人はいないと言われる程になっている
新入生の中には五道鬼灯の噂を聞いてやって来た者もいるとさえ噂されている

そんな普通とはかけ離れた日常を平然と過ごす私は、突然見ず知らずの男に冒頭の様に声をかけられたわけである

「やぁ、君がホーズキ?うわ、僕には及ばないけど綺麗な顔」
「ア゛?」

正直むちゃくちゃイラッとした鬼灯は躊躇する事なく威嚇した
丁度持っていたボールペンは折れた。勿体無いことをした



男は白を貴重としたを好むようだった
一週間も付きまとわれて知ったことだ。そういやなんで付きまとわれているのだろう?

彼は緑か紫の縁取りの上等な仕立てでいてシンプルな服を小綺麗に着ていた
名前は、天城白澤
天城家は五道家とは縁のある一族だ、と押し売りの自己紹介で言っていた

朱の紐と銭のようなものと小さな玉で出来た重そうなピアスをつけている
耳がもげれば良いのに

彼は同じ薬学部らしく二回生であるが、話したことはなかった
鬼灯も大分噂が一人歩きしている気があるが、彼もまた同じく、騒がれる、
いや、騒ぎ立てられ更に騒ぎを大きくするのを得意とする様な男だった

正直関わりたくはないし殴り飛ばしたいのだか、仮にも五道に恩ある鬼灯にはできない事だった





「ねぇ、鬼灯、構えよ」

食堂でレポート用のメモを整理している時だった
一週間で嫌でも覚えてしまった声に、イライラと内心で暴れる

「ねぇったら」

何が気に入ったのか、此の男はへらへらと纏わりついてくる
それが先ほどから繰り返すが一週間、一週間だ
いい加減いらいらも限界である
いっそ殺虫剤を常備しようか、●キ●リホ●ホ●でも設置してしまおうか

「貴方なんだってゆーんですか何が楽しいんですか私に纏わりついてて目が腐ってるんですか私は貴方が大好きな女の子じゃありませんよ鬱陶しいいい加減ほっとけこっちはなにも楽しくねーんだよシラサワ」
「ハクタクだ!息継ぎなしで文句だけって凄いな、腹立つわ」
「そうでしょうそうでしょう、腹立ったついでに怒ってどっかいけ」
「負けた気がするから嫌だ」
「大体お前の名前は尊大すぎる、神獣か」
「親に言え親に!」

尤もだった
白澤自身に名前を決める権限は無かっただろうことは分かる
転輪もきっと、こんな気分だろう、円満だってそうだろう
なんだ、私の周りには変な名前が集まるのか?
そこまで考えて、止める

もはやため息をついてやるのも勿体ない
この男のために大事なエネルギーを消費するのが癪だった

「ホント何なんですか、アンタ」
「てかさ、ほーずき、それまだ余裕あるレポートだろ?今やらなくていーじゃん」

何時のまにやら手元のメモを取られていて、訳も分からず腹が立つ
勝手に触られるのも我慢ならないが、この男に見られることがそれ以上に我慢ならない

「それでも期限はきます」
「三日もあれば充分だろ?こんなもの、大した内容じゃない」

とても腹立つ
認めたくはないが白澤のレポートはいつも好成績を叩きだしている
模範というか見本というか、そのまま教材として使えるレベルというか、
悔しいことに教授たちからの評価が一番高いのは間違えなくこの男だった

いつも違う女の子を侍らせへらへら笑ってるだけの優男だが、
その実薬学部どころか大学全体での主席はコイツだった

「流石は頭だけは優秀なだけはありますね。言うことが違う」
「いつも僕に勝てない体育会系鬼灯君には無理なのかな?そんなことは無いと思うけど?」
「っは。私から剣道で一本も取ってみなさい、すぐに国体に出れますよ」
「いってろ、僕はどっちかっつーと、弓道の方が得意だばぁーか。後競うにもできればサッカーがいいなモテるし」
「ああ球技は無理です。間違えなく貴方の顔面に向けてボールが飛びます」
「何それ怖い」

白澤は急に喉乾いたと立ち上がる
白澤くん~と、賑やかな声が、背後から聞こえてくる
そのままいなくなればいい
そう思いつつペンを持ち直し史料とのにらめっこに戻る
実際に二年生に課す程度のモノだ
大したものじゃないことだって自分でもわかってる
白澤は本当に優秀だから、更に別課題が出てることさえ知ってる
だからこそ、追い付いて、さっさと追い越したい
だから遊び呆けていればいい
私に足元をすくわれろ
唯飲み物を買いに行っただけだったら遅いくらい
やっと集中できる
このまま戻ってくるな、
そう、柄にもなく願った、のに、

「はい、鬼灯はカフェオレで良いだろ?」

スッと視界の端に入ったのは学食には売っていない、見覚えのあるロゴ入りの紙コップだった
態々私の分まで買ってくるあたりが忌々しい
それ以上に、態々買に出たというところが、腹立たしい
お金は払いませんよ、という前に、白澤は奢りね?と語尾にハートでもつきそうな笑顔で言った

「気持ち悪」
「ヒド!素直に受け取れよ!」
「受け取りますよ、カフェオレに罪はない」
「僕にもないけどな!」
「私の邪魔してる分際で何を言う」

ガラスに面した日当たりのいい場所
横列、なんというのかは知らないが、カウンターの様な形状の机の一番端
私はそこに座るため、お向かい、というものはない
隙間を開けるくらいの気を遣えばいいものを、白澤はぴったり隣に座る
煩わしい

「ホント、お前は真面目だよな」
「・・・それであなたに何か不都合でもあるんですか?」
「無いよ。でもお前が根詰めすぎて倒れたりしたら面白くないなって思って」

白澤の絹の様な髪がさらりと揺れた
その髪質に物申したい、女子か

「それこそ、貴方に関係あるんですか」
「あるよ。あるあるものすごーくある。僕お前のこと気にいってるからね」
「・・・は?」

一体、この男に気に入られる要素がどこにあるという
いい加減本当に鬱陶しくなってきたが、カフェオレを飲み干すまでは我慢する
そこまで礼儀知らずな行動はとりたいとは思わない

「あ、そこ、間違えだよ」
「・・・は?」
「これはね、似てるけどちょっと違う、こっちの、えーっと、うんこれ、これが正解」



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