2013/11/27
崩れ落ちる均衡

今になって思えば、小さいときは可愛がられて育った気がする。それこそ、小さかった時。母親が死んで、今の継母がやってきた。そこから、だったのかもしれない。「お前は醜い」「汚らわしい」「吐き気がする」「お父様の子じゃなかったら」彼女の言葉はいつも真に迫っていて、「お前が可愛がられてたのは、お前がまりにも哀れだったからよ。私は嘘はつかない。お前は醜い。思い上がらないで頂戴?」幼い俺はそれを素直に、信じていた。

から始まる森山受けが欲しい。
継母は【私の可愛い由孝】を作りたかったっていう話な。



突然、森山が倒れた。そして、秀徳の宮地清志がやってきて、引き取っていった。理由は説明されることは無く、森山はそれから二週間入院だと監督から告げられた。折角、推薦で学校が決まって、部活に居残り参加できるっていうときだったのに残念だ。と、言っていたと、聞いた。



「森山、どうだ!コレとか!」

自然に組まれる肩に嫌そうな表情を一瞬浮かべていた。いや、嫌そうだ、なんて生ぬるいような、完全なる拒絶を孕んだ色を、一瞬だけ。それは度々あらわれて、気づかれるより速く消えていた。それは、本当に時たま、なのだ。森山は自分から他人にスキンシップをすることは少ない。だから、知らないだけかもしれないのだが、気さくで頭のいい"残念な"イケメンは、基本的に心象がよく、友達は多い部類だ。だから、スキンシップだってそれ相応に行われているわけである。

「・・・森山、お前気分でも悪いのか?」

額に伸ばした手を、森山が頬を強張らせ、はらった。時々、あるのだ。本当に、時々。自分がとった行動が、信じられないというように目を見開く。そして、悪い。と目をそらす。でも、そのあとは、仕切り直したように、自分から、触ってくる。森山からのアクションはそれだけ。

「大丈夫だよ。」

ほらな。と、拒絶したはずの手を包むようにとって、自身の額に運ぶ。触ってもかまわない。拒絶したかったわけではない。精一杯の謝罪と感情表現。俺はそう解釈していた。クラスメイト達よりも隣にいる時間が長かったのだ。だから、そんな風に解釈するようになる程度には、拒絶の色を、見てきていた。

「さっき、一瞬、拒絶しただろ。」
「・・・だから、悪かったって」
「俺じゃなくて、須川をだよ。」

少し離れたところでまた違う話をしているクラスメイト達。そちらを一瞬だけ見て、互いに目を合わせる。森山は仄かに眉をよせ、なんでかな。と苦笑する。

「どうして笠松には、ばれちまうんだろう?」
「・・・それは、」

お前のことをよく見てるから。お前を見続けてきたから。お前が好きだから。理由はいくらでも思いつく。それでも、そのどの理由も、口に出してはいけない類のニュアンスを孕んでいる。ガガガっと傷が入ったCDが悲鳴を上げている時のような感覚。何かが行き違っていっている気がして、慌てて落ちた視線を森山に戻した。

「まぁ、大丈夫だから。」

森山はそういって笑う。笑うのは得意だ。そう昔、言っていたのを覚えている。見慣れてしまったその表情が、作り物なのか、それとも心からのモノなのか。その判断が、俺にはできなかった。



「笠松。」

丁度森山がトイレに席を立った後。きっと狙っていたのだろうが、声を掛けられた。

「最近森山、調子悪そうだな・・・?」

カマをかけるような言い方に、俺は特に答えず、そう見えるんだな、と、納得した。最近、他人との接触を避ける様子が、前にもまして増えている。クラスメイト達が、その些細な変化に気づいてしまうほどに、森山は、やんわりと、"他人を"避けていた。

「何か、知ってる?」
「・・・シラネ。」

口に運んだ紙パックのジュースは、空っぽだと主張し、俺はそれを握りつぶした。軽く椅子を後ろに倒して、スナップを聞かせて後ろに放る。カタン。という音がして、多少、ごみ箱が揺れた。

「あーあ、イッケメン。爆ぜろ。」
「んでこれで爆ぜねーといけねーんだよ。」


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