2013/11/26
無題
。笠森
そういえば、って、森山は立ち上がった。具合が悪かった奴はどこへ行ったやら。部活後付き添って森山んちまで送り届ければ、上がってけよ。と誘われて、他愛もない話をしていた。今日でも森山が帰宅してから丁度二週間だ。とくに後遺症もなく、体力落ちて辛い、と、文句を言う程度に収まっている。確かに、この二週間でもともと白かった肌は一層白さをまし、軽いウェットはさらに落ち、綺麗にしなやかに、細かった肢体はただただ細いというだけになった。筋肉がほとんど落ちてしまってたのだ。まだ安定しない時期に、約二週間もとなれば当然だ。あちらの時間間隔では正しく判断できていないらしいが、森山曰く、精々一週間くらいの気分、らしい。普通の人間は、一週間飲まず食わずだったら死ぬ。俺たちの心配をよそに、帰ってきた森山はしれっと部活に参加していて、温泉行きたいなーなんてほざいた。黄瀬は涙目で連れて行きます!と叫んで、それに言い出しっぺ本人は苦笑した。あの救出隊に参加させなかったため、帰ってきた気に一番いい反応をした中村・早川は、心配はしていたことを黙って、普通に接することに努めようとしている。そんななかで、少しずつ失踪事件は風化していってはいるが、突然、ふと、森山が視界から消えると、均衡を崩す人間が、バスケ部内に蔓延っていた。いま、まさに、そんな時。森山にとっても、俺たちにとっても、大事な時期。後回しにしていた無理が何時帰ってきて倒れるかなんて、分かったもんじゃない。そして、倒れた後、森山が宮地に連れて行かれることは考えずともわかる。倒れた時、俺でどうにかできる自信も、正直言ってないのだ。なんて、かっこ悪い。

「これこれ、渡すのすっかり忘れてた。」

はい。っと森山は薄い冊子を手渡した。それが、写真屋さんでもらえるようなアルバムであると理解した時、変な感覚になる。何の写真だ?いったい。渡されたのを素直に受け取った笠松は、よく見ると三冊もあるそれに小首を傾げる。

「三番目のは、部活の写真な。」

森山が嬉しそうに笑う。それだけは、どう見ても、森山が何処かで買ってきたのだろうと知れるもので、そういうのを気付かれるのを嫌う森山が、それをわざわざ言ったということは、どうしても中を見て欲しい、ということなのだろう、と笠松は三冊目のアルバムを開いた。

「ほら、これ、黄瀬が最初にあいさつに来た時のだぜ。」
「・・・は?お前あの場にいなかったよな?」
「監督に聞いて、写真隠しどらせてもらった。監督の許可は貰ったよ。」

くすっと、小さく笑う。悪びれる様子もなく、森山は俺の手元を見る。次へ行けと言われているようで、ページを捲った。次は、次は、森山は嬉しそうに説明する。これが、あれで、これは。全部森山がとったらしい。いつの間に。と思いつつ、合宿中の写真まであって、笑ってしまう。途中で飲み物を飲み切って、お代りいるか?って聞かれたから、あ、なんでもいい。と返せば、じゃーあまーいココアな。なんて言われたから、普通で頼む。と返した。森山が楽しそうに笑いながら部屋の外へといなくなる。俺はその背中を見つつ、手元にあるアルバムに視線を戻した。きっと、部活の写真は、まだ解説したいのだろう。では、こっちの二冊は?二冊のうち、片方を開く。そこには、見覚えのある、部活のメンバーじゃない奴らがうつっていて、どうやら三年生の行事光景であるとあたりをつける。そして、何枚か見ているうちに、修学旅行だと、分かった。

「そういえば、修学旅行でも、なんやかんや、あったんだよな。」

苦々しく思い出す。そして、初々しく、うつむく。いつの間にか笠松は、森山の帰りを待つ時間を、記憶の回想に、費やしていた。
[newpage]
同じクラスで、同じ部活。仲は良好。しかも部長と副部長のコンビと来ている。なにかとセットにされやすく、当たり前のようにそういう前提でクラス内の話は進んでいく。自主研修の班分けだって、そうだった。五人一組、という班で基本的にどう別れてもいい、ということだったので、と、笠松は、まず、森山だろ?と勝手に名簿に入れられる。まぁ、俺は、それでもかまわなかった。第一、堂々と一緒に入れるなら、それに越したことなんてないのだ。でも、森山はそれでもいいのだろうか、とか、少しは思った。イヤだって言われたら、きっとスゲー傷ついて、森山と一緒になった奴ら全員を呪ってやるかもしれないけど。

「らっきーだな。笠松。一緒だぞ。」
「・・・そうだな。」

森山は本当に嬉しそうに微笑んで、そういった。森山くん、私たちも一緒じゃダメ?おいお前ら、ずりーぞ!俺も笠松たちと一緒に行きてー!なんて言って、少々班分けは湧く。はじめっから一緒に書かれた名簿の残りに三人、入る。その三人を誰にするかで、少々もめていて、どうせなら、誰もくんな、なんて、意味のないことを考える。

「はは、俺らモッテモテ。」
「お前、男にもモテてんぞ?」
「森山!騙されるな!?女子は笠松狙いだぞ!」
「ばっか、その言い方だったら俺らは森山狙ってるみたいだろうが!」
「森山は黙って俺らの隣に居ろ!そしたら女子は寄ってくる!」
「そうだそうだ!」

以上に賑やかな室内で、一緒になって馬鹿な話をした。楽しかった。最終的に、森山の提案でくじ引きになって、俺たちと一緒に行く三人は、とある男子三人組になった。よっしゃこれでナンパに勝てる!と、叫んでいる。お前ら自主研修で何するつもりだよ。と、俺は冷静に突っ込みつつ、不服そうな森山と、くだらない話をした。




当日は二泊三日。宿泊の部屋は、名前順。「か」と「も」の間には越えられない壁があって、部屋は遠い。大体は三人部屋で組数が多いのだ。まぁ、最後のクラスの苗字の内訳の誠意で、森山の部屋は男子最後の部屋。そして、人数の関係で、二人部屋だった。森山と一日目、同じ部屋に泊まっていた男は、スゲ呪い殺したい。

一日目は慣れない感覚に戸惑って、夜も早く寝た。二日目の早朝。いつもの癖で早起きをした俺はぶらりと廊下に出れば、森山に会った。しっかりとジャージを着ていて不審に思ったのだが、ランニングに行くらしい。先生には許可を取ってるから笠松も一緒にどうだ?と誘われ、一緒に朝の外周に出た。ホテルの周りを三周くらい走るっていう、すごい軽い無いようだったけど、楽しかった。正直、別行動だった一日目よりずっと、楽しい時間だった。まぁ、飛行機の座席も、バスの座席も、しっかり隣だったけど。

その日は自主研修が入っていて、例の五人で歩き回った。観光地だが、価格を抑えるために冬の修学旅行、なので、人は少ない。っつーか寒い。有名な温泉地のホテルを拠点とした修学旅行は、もう、温泉にいればいいんじゃないか、とか思いつつ、そこそこ楽しむ。まぁ、森山がいなかったらそうでもなかったかもしれない。

その日の夜は一緒に大浴場に行った。白い肌が赤く熱っていくさまを見て、俺は居住まいを正した。温泉に入った、っていう感じじゃなくなっていて、凄く焦った。折角の温泉上がりなのに、修学旅行。浴衣で歩くわけにはいかない。森山がちえっと、言いつつ、部屋に帰ったらきとこー、って言って笑っていた。後で部屋に遊びに行くわ、って、一回別れて、そのあと結構すぐだった、森山の部屋の人間と俺の部屋の人間が、部屋替えすることになった。先生の了承もとれている。いや、むしろ、先生が、させたのだが。大ごとにしない。ということで、全員に口を閉ざさせた。あまり楽しくもないことだったので、誰も噂にもしなかった。森山は折角浴衣で寝たいと言っていたのに、もう、着ないと。綺麗に畳んでいた。殺意しか思い出せないから、何があったのかは、割愛させていただく。

夜中、森山は寝付けない様子だった。そんな森山に、俺も寝付けない。怖がらせるかと思いつつ、森山のベッドに近づいて、一緒に寝た。森山は驚いた様子を示したものの、声に出して笑ったくらいで、驚くほどすんなりと、眠った。

最終日。朝、外周はしなかった。森山はぐっすり眠っていて、起こす気にもなれなかった。その日は森山から離れるものかと言わんばかりに一緒にいた気がする。

「お前ら夫婦かよ。」

なんて、お決まりの台詞を甘んじて受けながら、俺たちは一緒にいた。そんな時の写真。




「すげー俺ばっか。」
「俺も写ってんぞ?」
なんて、戻ってきた森山は苦笑する。論点が可笑しいだろ。とか思いつつ、開いてた修学旅行のアルバムは閉じる。そして、バスケ部のを開きなおした。森山は嬉しそうに話し始める。俺はそれを聞きながら、どう行き着いてこうなったのか、ミルクティーを口に運んだ。凄く、甘い。


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