2013/11/21
無題
いつもと同じようにしたがき
20xx年 4月某日 いつの間にか定着した"シャララ"という効果音を十二分に発揮し。全くその気もなく、「仲良くしてください」等の挨拶を口にした。先輩たちには白い目を向けられ、主将さんからは蹴りを入れられた。なんて乱暴なんだ。ココに俺を呼んだのは、そっちだっていうのに。スゲーいらってしたから言い返そうとしたら、納得いかないが理解できることを言われて、黙らされた。そのあと、部活をさっさと切り上げようとした俺に、副部長サンがペットボトルドリンクをくれた。ドリンクと言っても、ご丁寧にミネラルウォーターだ。なんとなく、イラッとした。

20xx年 4月某日 今日もまた、部長さんに蹴られる。副部長さんがこっそり俺のそばによって来て、小さく耳打ちをした。「笠松のこと、嫌わないでやってくれな」優しい声が、耳に残った。一応、部長さんの苗字が"笠松"であることは知っていた。入部前にも、何度かあってるし。そして、そういえば、この人の名前は、何だっけ?っと思った。そしてその時、初めてまともに顔を見た気がする。まぁ、見たのだ。息が詰まった。顔面偏差値が異常な中学生活を送っていて、さらに、顔面偏差値がそこそこな世界で仕事してるから、感覚はくるってるとよく言われる。でも、そんな俺が、本気で「綺麗な人だ」と思った。今までにも和風美人という触れ込みで売っている人に、会った事が無かった訳ではない。むしろ、日本人だから、そんなのはざらだ。その顔で?なんて言えても、ここまで、綺麗だと思った人はいなかった。この人は、圧倒的だった。この感情が正しいのか、正気分からないが、俺は確かにこう思った、"この人が、モデルじゃなくて良かった"と。そして、"海常で会えて、良かった"と。

20xx年 練習試合後 人生初めての敗北を知る。俺が勝たせると豪語していたのに、本試合でさえない、練習試合で、しかも、有名校ではない、"新設校"の格下だと見下していた相手に。笠松さんに盛大にシバかれた。俺がコートに立っていて負けたのだから、と思っていたが、違ったらしい。真っ直ぐな瞳に、諭された。何を言われたか、正直覚えていないし、内容は聞いてもいなかった。ただその瞳に圧倒された。そして、"ココは帝光じゃないのだ"と酷く当たり前のことを、今更ながら確認した。それを受け入れた時、ピトっと、頬に冷たいものが当てられた。それはあの時のそれと同じラベルのミネラルウォーターで、「まぁまぁ、それくらいで」なんて言いつつ、それを彼は俺にくれた。おれにはねーの?と笠松さんが不満そうに声を上げたのを聞いて、"森山由孝"さんは、苦笑しながら、もう金ねーの。っと自身の手を、笠松さんの頬にあてた。笠松さんは、冷たっと声を上げて、頬に添えられた手に、己の手を重ねた。そして、もう片方の、おろされたままの手をゆっくりと握った。そんな姿を俺は"羨ましい"と思った。

20xx年 6月某日 欲しいものが全て手に入る訳ではないのだと、今更ながら知る。顔を気にいったのだと思っていた俺は、素直にライフポイントを削り取られていっていた。例えばキスだったり、部室エッチだったり、襟元から覗くキスマークだったりそんな、決定的なものを見たんだったら、話は別なんだろうけど、そうではないのに、負けたと思った。「笠松」「かさまつっ!」「かさまつー?」「笠松!」気の抜けたような表情で、そこにいるのが当たり前であるかのように、彼は笠松と呼んで、自然に笑う。ああ、"羨ましい"当たり前のように触れて、じゃれる。そして、ふと気づくと、優しい視線を、まっすぐに、俺じゃない人に、向けている。俺が、恋を自覚した時にはもう、その人の心は、他人のものだった。

20xx年 7月某日 残念ながら人生初めての失恋を割り切ることはできず、略奪を目論む。二人セットで動くところに、割って入るようになる。そして、暫くして、何かが可笑しいな、と、思ったら、森山さんは気付いたら、森山さんは小堀さんと行動を共にするようになっている。アレ?可笑しい。絶対。気を取り直して、笠松さんと森山さんが二人っきりになることは無いように、と動く。なぜか、俺が森山さんと二人っきりになることもない。そして最近は気付いたら、森山さんが良く、俺たちの輪から何時のまにか離脱している。ほら、また、小堀さんの隣にいる。もしかして、と最悪の疑惑が胸を占める。勘違いされてる?疑惑は確信に変わる。一歩後ろを小堀さんと歩く森山さんの瞳には、諦めにも似た色が浮かんでいて、俺は盛大に戸惑った。

20xx年 8月某日 夏休み 今日は夏の大会も終わってしまい、暫くバスケを休めと言われてストバスに行けないオフの日。どうせ、することないんだろ?っと言われたので、じゃあ、付き合ってくださいと、森山さんをプールに誘った、約束の日。午前中の早い時間から、プール。上手い事笠松さんを出し抜いたことに歓喜しつつ、二人でプールを楽しむ。女子が集まって姦しい。"この人がモデルじゃなくてよかった"何時だったか思ったことを再び思った。今度はハッキリとした意味を持っていた。そして、理解していた。"この人を、人前に、衆目に曝したくない"そう思ったんだと。「森山さん」無防備な顔でナンパに勤しんでいた彼に声をかける。「ん?」と見慣れた笑顔。それを見て周りは、はっと息をのむ者、ふっと息を吐くもの、息を止めるもの、多種多様な反応を見せる。プールは失策だった。


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